「電力線通信」=PLC(Power Line Communication)という通信方式があります。コンセントに差し込むだけでインターネットにつながる仕組み、それがPLCです。このような手軽さがあるにもかかわらず、あまり身近に使われていないのはなぜでしょうか。PLCの特徴と歴史を見ながら、普及の進まない理由と再注目されている理由をご紹介します。
PLC(Power Line Communication)とは
コンセントに差し込むだけでインターネットにつながる通信方式、PLCとはどのようなものなのでしょうか。
電力線に通信をのせて
インターネットに使う専用の通信線と違い、一般家庭や営業所・工場などあらゆる建物で使う電気の線、電力線はいたるところに張り巡らされています。この電力線を、通信回線としても利用する技術がPLC(Power Line Communication)です。
PLCによる一般的な通信方法では、電力線に電力と異なる周波数のデータ信号をのせて送受信を行う方式をとります。これにより、PLC専用のモデムをコンセントに接続するだけでインターネットの利用が可能になります。
PLCは、電力線搬送通信、または電力線通信と呼ばれることもあります。
PLCの利点
PLCには三つの大きな利点があります。
その一つが、これまでLAN接続が困難だった環境でも使用できるという点です。こういった環境では新たにUTPケーブルの敷設を行ったり、無線LANを利用したりするのが一般的です。しかし工事が不可能、無線LANが届かないといった場合には、LAN接続が困難です。そういった場合に、PLCに大きなメリットが生まれることになります。
二つ目の利点としてあげられるのが、無線LANに比べて消費電力が少ないという点です。PLCは無線LANの半分以下の消費電力で通信を行うことができ、高まり続ける環境意識に適した通信方法といえます。
PLCの持つ三つ目の利点は、スマートグリッドを構築するうえで中心的な技術としての注目度です。「知的な電力網」といわれるスマートグリッドは、AIと通信機能を搭載した計測機器により、電力需要の最適化を目指す仕組みです。この仕組みを最小のコストで実現することを考えた場合、PLCが必要不可欠な技術となります。一戸一戸に取り付けられた電力使用量メーターから、電力使用量の情報を送信することを考えるとPLCがコスト・安定性ともに最適な方法なのです。
こういった利点があり、コンセントに差すだけでインターネット接続が可能という手軽さもありながら、PLCは普及してきませんでした。PLCの歴史からその理由を考えてみましょう。
PLC(Power Line Communication)の歴史と新規格
PLCは、電力線だけがあり電話は通じていないような過疎地域や山岳地帯において、音声通信の手段としての利用を目的に生まれた通信方法です。しかし高電圧にのせて通信を行うためには、大掛かりな設備が必要なことからコストに見合わず、音声通話手段としての一般普及はほとんど進みませんでした。
しかし、1960年代から変化が訪れます。情報通信の重要度と必要性が高まる一方で、通信専用の線はまだまだ整備されておらず、PLCが活用される時代が到来します。1960年から1980年にかけて、国内での通信回線の総距離で比較すると、PLCが最も利用されていた通信手段であることがわかります。
しかし1980年からは通信線での通信が普及、さらに1990年代からは光通信が中心となっていき、PLCは影を潜めていくこととなりました。
その一方で、利用する場面が増えている分野もあります。それが、電力会社が使用する通信回線としての利用方法です。緊急時連絡手段、配電自動化システムの制御通信手段としてはすでにある電力線を利用できるというメリットから、地方を中心に採用されています。
近年では、通信網の重要性は加速的に増大しており、PLCを利用した通信手段も見直されるようになりました。また、IoTを利用したスマートシティやスマートホームといった考えが、PLCの利用と結びつく点が多く、これも世界的なPLC利用再考のきっかけとなっていると考えられます。
日本では2001年に「e-Japan重点計画」の中で、PLCの利用方法見直しが議論されたことが始まりです。この計画では、「電力線搬送通信設備に使用する周波数帯域の拡大の検討」が提言されました。2006年には情報通信審議会情報通信技術分科会CISPR委員会と高速電力線搬送通信設備小委員会によって審議されました。
これにより利用できるようになった周波数帯、2~30MHzの帯域を用いるPLCは、高速PLCと呼ばれるようになり、現在の主流となっています。この高速PLCについては、日本でHD-PLCという規格が作られ、アメリカではHomePlugという団体が定義したPLC規格があります。この二つを合わせ、国際標準規格として生まれたのがIEEE1901です。IEEE1901は高速PLC利用拡大の地盤として普及することが期待されています。
PLC実用化と普及の課題
しかし、PLCには大きな課題もあるのが現状です。
PLCは電力線にのせて通信を行うという特性上、ノイズが発生しやすく、これが通信データと周辺機器の双方に影響を与えます。また、低速PLCとして利用可能な10kHz~450kHz、高速PLCとして利用可能な2~30MHzの帯域の間には、短波ラジオやアマチュア無線、電波天文観測などの周波数帯が存在します。PLCから漏えいするノイズが、これらに影響を及ぼすことが懸念されているのです。
そのため、2~30MHzの高速PLC帯は屋内利用のみと制限され、屋外の引き込み線や架空線での利用は許可されていません。
また、電力線自体がノイズに対して強くないという課題もあります。もともとデータ通信を想定したケーブルではないため、通信線よりノイズの影響を受けやすいのです。さらに、電力線が高周波信号向けに設計されていないこと、電力線には分岐や末端負荷の接続があることなどから、信号減衰量が大きいという点も課題となっています。
社会のスマート化によりPLCに再注目
そのような課題も残るなか、PLCに再び注目が集まっています。
きっかけとなったのは、電力メーターのスマート化です。電力使用量について、これまでは検針員が一ヶ月に一度訪れ計測していました。これを自動で計測し送信するスマートメーターの普及が進んでいます。
このスマートメーターの通信方法として、PLCが採用される動きが広まっているのです。30分に1回のペースで各家庭から電力使用量を送信するには、高い収集率が必要となります。これに対して国内のPLC規格HD-PLCは低圧電力線に接続するだけでよく、大きな工事が必要なくコストについても優れています。また、安定した通信が可能で、膨大なデータを正確に測定して送信可能であり、スマートメーターに適した通信方法なのです。
このスマートメーターの普及は、電力需要を自動的に調整するスマートグリッドへとつながる第一歩として期待されています。
PLC普及のカギはIoT
電力線を利用してインターネットに接続する仕組み、PLCについてご紹介しました。
このように、長い年月をかけて開発と審議が進められてきたPLCは、法の関係上使用場所や用途が限られていたため、なかなか普及していないのが現状です。しかし近年、IoTをより実用的に使うための通信規格として再び脚光を浴び始めています。スマート化社会におけるIoTとPLCの結びつきがどのような動きを見せるのか、注目していく必要がありそうです。
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参考: