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    医療機器とEMC規格-電子機器による高度医療の安全のために必要な基準

    あらゆる電子機器は電磁波を発生しています。電子機器のあふれる現代文明では、人体や別の機器に対して電磁波の影響がない範囲で使用していく「両立性」が求められます。こういった両立性を満たす基準について定めたものが、EMC規格ですが、どういったものなのでしょうか。ここでは、特に厳格な基準のある医療機器に関するEMC規格について解説します。

    EMC規格とは

    EMC規格とはどのようなものでしょうか?

    電子機器からの電磁波による影響についての規格

    現代社会は電子機器であふれ、ひとつの室内においても複数の機器が稼働している状況です。電子機器はそれぞれ電磁波を出しているため、お互いに影響があり、ときには妨害を与えて問題となることもあります。

    こういった電子機器の電磁波による妨害をEMIElectromagnetic Interference)と言い、各国で規制が設けられています。

    一方で、他の機器からの電磁波に対しどれくらい影響を受けにくいか、電磁波によって引き起こされるノイズに対しどれくらいの耐性があるかという点も重要です。こういった電磁波からの影響を受ける度合いや感受性をEMSElectromagnetic Susceptibility)と言います。

    この電磁波妨害=EMIと電磁感受性=EMSは、どちらか一方だけを優先することはできません。どちらも電子機器が使われている以上避けることのできないもので、背中合わせの関係と言えます。

    こういった二面性を持つEMIとEMSを両立しバランスをとっていくための考え方が、電磁両立性=EMC(Electromagnetic Compatibility)です。また、EMCについて設けられた規格がEMC規格となります。

    IEC規格で規定

    EMC規格は、電気および電子技術分野の国際規格であるIEC規格と、その特別委員会であるCISPR規格を基本として国際的に規格化されています。

    米国では、米国内に本部を置くIEEEの規格が引用される場合が多く、EMC規格の分野では国際規格として扱われます。

    EMC規格についてはこちらでも詳しくご紹介していますのでご覧ください。

    EMCによる電磁波との付き合い方―ノイズ対策とその手順|リタール

    より厳しい基準が求められる医療分野のEMC

    国際的に規格化されているEMCですが、機器の誤動作が人命にも関わる医療機器については、特に厳しい基準が必要です。医療分野のEMCについてはどのような基準があるのでしょうか。

    日本の医療とEMC

    多くの電子機器を使用する現代の医療では、EMCも無視できない重要な要素です。

    日本では2000年前後から携帯電話と医療機器の干渉が注目され、これを受けて日本医療機器関係団体協議会が自主規制を制定しました。この規制は欧州のCEマーク制度に関係する機関MDDMedical Device Directive)のEMC規格をもとに規定されたものです。

    その後、2002年にIECEMC規格を基準としてJISにも規格が制定され、薬事法においても規制することになりました。

    現在は薬事法でクラス1に分類される医療機器を除き、高度管理医療機器および管理医療機器のすべてにEMC規格の適合が義務付けられています。

    海外向け制御盤製作に役立つ 『IEC 61439』 と 『UL』 の基礎知識

    医療機器のEMC規格に関する主な試験

    医療機器は次のようなEMI試験を行いEMC規格に適合するかを試験します。

    • 伝導妨害波測定
      機器のケーブルに重畳する伝導ノイズがないか試験
    • 放射妨害波測定
      機器から発生する放射ノイズの大きさを試験
    • 電源高調波測定
      電過電流による発熱や焼損の原因となる電源線の電流の歪みがないかを試験
    • 電圧変動・フリッカ測定
      電源電圧の変動およびフリッカが限度値の範囲内にあるかの試験

    これらの試験の基準となるのはIEC 60601-1-2です。また、CISPR11、IEC 61000-3-2、IEC 61000-3-3、IEC 61000-4などを引用し実施されています。

    EMC規格は第4版へ移行

    IECEMC規格は2014年に改定され、その後JIS化された国内のEMC規格も第4版へと移行しています。

    4版では、医療機器の製造業者が想定されるあらゆる使用環境においてリスクマネジメントを実施することが盛り込まれています。この結果を、リスクマネジメントファイルとしてまとめなければなりません。

    また、試験レベルも引き上げられており、医療の安全維持を目指すため医療機器におけるEMC規格はさらに厳格化しています。

     

    医療機器製造に関するルール-QMS省令とEMC規格

    EMCとは別に、医療機器の製造販売には別のルールも存在します。

    医療機器の製造販売業の許可を得るには、「医療機器及び体外診断用医薬品の製造管理及び品質管理に関する省令」(QMS省令)を遵守していることが必要です。

    このQMS省令は、医療機器の製造工程改善や品質向上のためにどのような品質マネジメントを行っているかを定めたもので、すべての医療機器に適用されます。

    また、QMS省令の体系には、QMS省令を遵守するために必要な体制とはどういったものかを定めたものとして体制省令が存在します。それが「医療機器又は体外診断用医薬品の製造管理又は品質管理に係る業務を行う体制の基準に関する省令」(体制省令)です。この体制省令では医療機器の製造販売にあたりどのような試験を実施しているかも重視されています。

    具体的な内容の定めはないものの、EMC規格の適合は医療機器製造販売において別角度から必須条件であり、当然ながらEMC規格の適合も条件として含まれます。

    QMS省令とEMC規格、両方の基準を満たさなければ医療機器の製造は許可されず、どちらも日本の医療の安全を守る重要なルールと言えます。

     

    高度化する医療機器の安全を維持するために

    医療が進化するとともに高度化を続ける医療機器は、それぞれが発生させる電磁波によって人体や別の機器へ与える影響のリスクも増加しています。日本の医療体制にEMCに関する規格と試験はなくてはならないものであり、それと同時に製造業者はリスクマネジメントについての体制も整えなければなりません。EMC規格はさまざまな電子機器について定めたものですが、医療機器については特に厳格に定められています。EMC規格は日本の高度な医療の安全を維持するために必要な規格です。

     

    関連記事:スイッチギア(開閉装置)の規格の種類と役割について知ろう

     

    参考:



    リタールの技術ライブラリ
    「規格に適合したスイッチギア及びコントロールギアの製作IEC 61439適用」
    本冊子は、新規格IEC 61439 準拠に必要な様々な対策を講じる上でのお手伝いをするために作成しました。リタール製規格適合システム製品の利用に関するご相談から貴社機器の要求設計や日常検査のご提案まで、幅広くご利用ください。
    ※新規格IEC 61439における変更点の他、「設計検証報告書」の作成方法などについて、85ページにわたって解説しています。

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