
ラックマウントサーバーなどのIT機器の電源として、直流給電という方式が世界的に注目を集めています。電力の利用効率が上がるだけでなく、自然エネルギーとの親和性も高いことから、急速に開発が進んでいる、サーバーの直流給電システムについてご紹介します。
増大するデータセンターの消費電力
今や世界を動かす一部となったインターネット。世界中で利用されるインターネットを支えているのが、サーバーの集合するデータセンターです。そのデータセンターでは、サーバーの発熱を抑えるための空調などを含め、大量の電力が消費されています。
ミック経済研究所の発表によると、データセンターの消費電力量は年々増加傾向にあり、今後さらにデータセンターの利用が増えるとともに、全体の消費電力量も大きくなっていくと予想されています。また、富士通株式会社の調査によると、データセンターの消費電力量は、世界全体のエネルギー需要に対して2%を占めるという報告もあります。
今後さらにインターネットの利用が増えることは必然です。これに伴いデータセンターの消費電力量の増大が予測され、省電力化が世界の課題となっています。
注目される直流給電のメリット
これまでのIT機器に対する電源供給システムでは、無停電電源装置(UPS)などとの間で直流と交流の変換を何度か繰り返し、そのたびに電力ロスが発生していました。そこで注目され、研究が進んでいるのが直流給電という考え方です。
直流のみで給電することにより低消費電力化を実現できる直流給電方式を、すでに採用しているデータセンターも存在します。
施設内の照明は、今ではほとんどが低消費電力のLEDを利用するようになっていますが、ここでも交流から直流への交換が発生しています。直流給電では、LED照明へ直流のまま給電することにより、無駄を減らすことができます。
また、太陽光や風力などの自然エネルギー発電は、そのほとんどが直流で稼働するシステムとなっており、直流給電に対する親和性の高さが注目されています。発電から給電まで、一貫して直流のみで電力が供給されるとなれば、大幅な消費電力の削減が実現できると予測されています。
全世界的なデータセンターの動向とHVDC
このように、データセンターの消費電力増大という問題に対し、直流給電というインフラシステムは解決の糸口になると期待されています。
このソリューションに対する期待は世界的に高まり、新たな動きが生み出されています。
大手IT企業が参加するOCPとは
2011年にフェイスブック主導によりはじまったOCP(オープンコンピュートプロジェクト)について
本格的な消費電力削減への取り組みと、新時代のデータセンターの実現を目指して発足したのが、OCP(オープンコンピュートプロジェクト)という世界的な取り組みです。
この取り組みは、企業が競争の垣根を超えて集まり、データセンターそのものや、サーバー、ストレージなどネットワーク機器について、最高効率の仕様を策定し、それを公開・共有しようというもの。世界のインターネットを支えるデータセンターについて、ハードウェア面でのオープンソース化を目指すプロジェクトです。
OCPは2011年にフェイスブックが提唱し、2014年にマイクロソフト、IBM、2015年にはアップルが参加したことにより大きな注目を集めました。さらにAT&T、ベライゾン、SKテレコム(韓国)といった大手IT企業に加え、グーグルが参加表明したことにより、まさに世界的なプロジェクトへと発展しました。
このOCPが、新たなデータセンターの省電力化に向けたソリューションとして推奨しているのが、直流給電システムなのです。
開発が進む高電圧直流給電(HVDC)
従来の直流給電という考え方は、屋内での送電を直流にするというだけのものでした。しかしこの方法で問題となったのが、電線の抵抗による電力ロスです。そこで、この送電ロスを極限まで減らす方法として提案されたのが、高電圧直流給電(HVDC)です。電線の抵抗による電力ロスは、電圧を高くすることにより誤差といえる程度まで小さくすることができます。HVDCでは、340~380Vほどの高電圧で給電が行われます。
またHVDCは送電施設から高電圧のまま給電されます。今後さらに直流給電の研究・開発が進み、一度も直流、交流を変換することなく送電される仕組みができあがれば、電力ロスのさらなる削減が期待されます。
これと同時に、太陽光など自然エネルギーによる発電との親和性も一層高まるとして注目されています。
国内外におけるHVDCの導入例
国内外で、次々とHVDCの導入が進んでいます。
- XECHNO Power
NTTデータ先端技術株式会社が、電力ロスに対するソリューションとして開発した直流給電システム。 - さくらインターネット石狩データセンター
国内インターネットデータセンター事業の大手企業、さくらインターネット株式会社が、石狩に大規模データセンターを新設。上記NTTデータ先端技術が開発した直流給電システムとHVDCを世界初採用したことから注目を集めた。 - 米国テキサス大学オースチン校
国立研究開発法人新エネルギー・産業技術総合開発機構の要請により、株式会社NTTファシリティーズがテキサス大学オースチン校にHVDCとそれに対応した太陽光発電システムを導入した。 - けいはんなデータセンター
データセンターエネルギーの管理と仮想化技術とを連携させる新技術の開発を進めるため、株式会社国際電気通信基礎技術研究所の内部に設置された、けいはんなデータセンターには、NTTデータ先端技術のHVDCが採用され、富士通株式会社のサーバーが運用されている。
このように世界でHVDCの導入は進んでいます。この動きは今後さらに加速していくと見られ、データセンターの省電力化に向けたソリューションとして普及が進んでいくでしょう。
直流給電がインターネットを支える時代へ
インターネット利用者の増加、スマートフォンなどのモバイル機器が発達したことに加え、クラウドの普及によりデータセンターの需要は加速傾向にあります。そこで課題となったデータセンターの省電力化に向けたソリューションとして、注目を集める直流給電とHVDC。今後さらに研究が進み、直流給電がインターネットを支える時代へなっていくかもしれません。
参考:
- 特集から4年、データセンター向け直流給電がついに商用化|日経テクノロジーオンライン
- 大量のエネルギーを消費するデータセンターが目指す「究極の省エネ」とは?|FUJITSU JOURNAL
- HVDC DC12V方式 + XECHNO Power | NTTデータ先端技術株式会社
- さくらインターネットとNTTデータ先端技術、世界初、直流給電データセンターを実現|さくらインターネットプレスリリース
- 米国テキサス大学オースチン校における「高電圧直流(HVDC:High Voltage Direct Current)給電システム」の実証運転開始式を開催| NTTファシリティーズ
- FUJITSU Server PRIMERGY 導入事例 - 株式会社国際電気通信基礎技術研究所(ATR)様|Fujitsu Japan