いまや企業にとって標準化は必須ともいえるようになりました。しかしひと口に標準化といっても、企業や部署によってさまざまな取り組み方や基準が存在します。標準化とはどのように定義され、どのような意義を持つのかを見ながら、標準化によってもたらされるメリットを考えてみましょう。
日本産業規格(JIS)では、標準化を次のように定義しています。
「実在の問題又は起こる可能性がある問題に関して、与えられた状況において最適な秩序を得ることを目的として、共通に、かつ、繰り返して使用するための記述事項を確立する活動。」
また次の3点についても注記されています。
注記1 この活動は、特に規格を作成し、発行し、実施する過程からなる。
注記2 標準化がもたらす重要な利益は、製品、プロセス及びサービスが意図した目的に適するように改善されること、貿易上の障害が取り払われること、及び技術協力が促進されることである。
注記3 旧 JIS Z 8101:1981 の品質管理用語では、“標準化”を“標準を設定し、これを活用する組織的行為”としている。この意図するところは、注記 1 と同一である。
(引用元:JIS Z 8002「標準化及び関連活動−一般的な用語」1.1 標準化)
日本規格協会は経済産業省による「基準認証研究開発事業(標準化に関する研修・教育プログラムの開発)」において、標準化の意義についての資料をまとめています。これによると、標準化を進める意義は次のようなものだとされています。
従来は上記の4つが標準化の果たす機能であり、標準化を進める意義でもありました。しかし近年では、次の5つの意義も加えられ、ビジネスツールとしての標準化という側面も持つようになっています。
このように、標準化の意義や機能が拡大しているなか、常に消費者ニーズや市場動向をとらえ活用していく必要があるとしています。
標準化と反対の状態は「属人化」と言えます。良く言えば職人的、悪く言えばブラックボックス的と言うことができます。その中で業務が属人化することによるリスクとして主に以下の2つが挙げられます。
社会構造やニーズの高度化、複雑化が進む中で、企業活動としては個人や単一セクションだけで業務が完結するケースのほうが稀であると言えます。特にプロジェクト体制で進行する業務の場合、誰がどのくらいの業務量を抱え、進捗状況がどうなっているかが見えないブラックボックス状態は全体的な進行スピードを低下させる要因となってします。
労働力人口の減少に伴い、多くの企業で技能伝承やBCPが課題となっています。その中で業務の標準化が図られておらず、“習うより慣れろ”といった時間をかけておこなうOJT偏重の教育計画では、スキル継承どころか事業継続すら危うい状態となってしまいます。
標準化によって得られるメリットは、その産業分野や部門によってさまざまです。ここでは、モノづくりやサービスの提供における一般的な標準化のメリットを、2つの観点から考えます。
標準化による社内への直接的効果としては、次のようなものがあります。
一方、外部要素からの間接的効果としては次のようなものがあります。
海外取引への対応
国際標準に従った仕様で製造することにより市場参入の障壁が取りのぞかれ、多国間貿易が可能となる。
国内での標準化の事例として、自動車メーカーの標準化プラットフォームへの取り組みが注目されています。その取り組みの中では、
・開発設計分野
・生産分野
における標準化に焦点が当てられています。従来は専用設計していた車種ごとの開発設計を、車格によって数種類の基本骨格を整備し、部品やユニットのモジュール化だけでなく、エンジンやシートの取り付け角や位置といった部分まで設計標準を制定し、設計開発に関わるリソース削減により、原価低減と新製品リリースのスピードアップが図られています。
また、製品のプラットフォーム化により、生産分野での革新も目指されています。従来の車種ごとに専用ラインを用意する生産方式では、生産量は確保できるものの、モデルの売れ行きによってはラインが止まる時間が出るなど、投資効果の確保が難しい場合があります。そこで、一つのラインでさまざまな車種を同時に生産する混流生産方式が注目されています。品質保証の観点からは部品の組み間違えや異品混入といったリスクを避けるため、1段取りで1品種生産が最も安全とされていましたが、製品が徹底的に標準化され、同じ部品で異なる製品を造ることができるのであれば、需要変動に強い、常に動かすことのできる生産性の高いラインを実現することができます。
産業規格は国家標準として、日本国内であればJIS、海外であれば、ANSI(アメリカ)、DIN(ドイツ)、BS(イギリス)、BG(中国)などといった、製品やサービスが適用される地域ごとにさまざまな分野の標準産業規格が定められています。それらの国家標準は国際標準規格であるISOがベースとなっており、それぞれの地域の文化や産業の歴史に合わせた内容に翻訳され、国家標準として制定されている内容も多くあります。
その中でも、モノ規格とマネジメント規格と呼ばれる種類に分類され、品質マネジメント規格であるISO9001は品質管理のグローバルスタンダードとして広く認知されています。ISO9001認証の企業により生産された製品やサービスは、国際的な品質基準を満たしていると見なされ、高い品質レベルと各国規格との整合性の裏付けと言えます。SDGsで世界が目指す方向性としても、世界中どこでもボーダレスに安全安心で高品質な製品やサービスを提供できるようにすることは生産者の責務になると言えます。
標準化の定義と意義、メリット/デメリットについて解説しました。標準化によって多くの直接的、間接的なメリットが得られます。また、社会や顧客のニーズは刻々と変化するので、一度標準化したら終わりではなく、ニーズを的確に捉えながら改訂・改善をほどこし維持管理していくことが重要です。よって、標準化は企業の収益改善だけでなく、顧客や地域社会に対する新しい価値の提供に繋がります。いま一度、標準化の意義を見つめなおし、効果的に標準化が進んでいるか、標準化すべき製品や業務とは何か、標準化の基準が適切であるかを考えることも必要かもしれません。
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