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    盤用クーラーの冷媒ガスの変遷と地球温暖化、脱炭素

    カーボンニュートラル、脱炭素への取り組みは、いまや製造業企業に欠かせないものとなっています。とは言え、つい数年前までは「地球温暖化防止」と言っていたのが、いつしかカーボンニュートラル・脱炭素という表現に変わり、いまではそれが定着しています。この変化の裏には、環境技術の進化と社会への浸透があります。今回は、そうした変化を盤用クーラー等に使われる冷媒ガスの移り変わりとともに見ていきながら、最新の盤用クーラーの冷媒ガスR513Aについても紹介します。

    1980年代から世界規模で地球温暖化対策が始まる

    この脱炭素・カーボンニュートラルという動きが世界的なムーブメントに発展したのは1980年代です。科学者の間で地球の温度上昇が気候変動に大きな影響を与えていると話題になり、1985年にオーストリアのフィラハで地球温暖化に関する初めての世界会議が開催されました。

    それから1992年にはブラジルのリオデジャネイロで、国連加盟国のほぼすべてに相当する世界180カ国以上の国が参加した地球サミット(環境と開発に関する国際会議)が行われ、「気候変動枠組条約」が署名されました。

    それにともなって1995年にはドイツ・ベルリンで初めてのCOP(気候変動枠組み条約締約国会議)が開催されました。COPは地球温暖化を防ぐための枠組みを議論する国際会議として毎年行われているもので、2021年は英国・グラスゴーでCOP26が開かれ、2022年はエジプトで行われる予定となっています。

    2020年までの温室効果ガスの削減目標を定めた京都議定書や、2020年以降の枠組みを定めたパリ協定などは、このCOPで議論され、批准されたものになります。毎年行われるCOPの内容が、気候変動のいまとこれからに向けたロードマップと考えても良いと思います。

    地球温暖化の仕組みは?

    続いて、あらためて地球温暖化の仕組みを振り返り、脱炭素・カーボンニュートラルとの関連性を見ていきます。太陽から降り注いだ光は、オゾン層から大気を通って地面を温めた後、赤外線となって地球の外に向かって飛び出していきます。しかし二酸化炭素を含む大気には赤外線を吸収して再放出する性質があるため、吸収した赤外線を再度地表に戻します。つまり大気が布団のような役割を果たして熱を逃しにくくし、結果として地球表面の温度が上昇し、地球温暖化へとつながっていきます。

    この一連の動きは温室効果と言われ、温室効果がない場合、地球の表面温度はマイナス19℃ほどになると言われています。しかし温室効果によって現在は14℃まで上昇し、いまだ止まる気配はありません。

    温室効果を引き起こしている最大の原因は、人間が出す二酸化炭素やメタンなどの温室効果ガスの増加です。産業革命以後、石油由来の燃料利用が増大したことにより、二酸化炭素やメタンなどの放出量が増え、大気中の温室効果ガスの濃度が高まり、これまで以上に熱を溜め込むようになりました。特に二酸化炭素は、人を起源とする温室効果ガスの排出量の75%を占めます。温室効果ガス世界資料センター(WDCGG)によると、2020年の世界のCO2平均濃度は413.2ppmで、産業革命が起きる前の1750年に比べると49%増加しているとのことです。

    地球温暖化防止のためには温室効果ガスの排出量を減らし、濃度を下げていくことが一番の解決策で、なかでも二酸化炭素を減らしていくことが最重要になっています。そのため以前は「地球温暖化防止」という全体的なスローガンで啓蒙していましたが、私たちが実践しなければいけないことをより具体的に、ピンポイントで示すため、スローガンが「脱炭素・カーボンニュートラル」へと変わり、いまに至るという訳です。

    地球温暖化と冷媒ガスの関係とは?

    盤用クーラーはもちろんのこと、家庭用・業務用エアコンや冷蔵庫、冷凍庫、車のエアコンなどには冷媒ガスが使われています。この冷媒ガスはとても便利なものですが、CO2よりもはるかに高い温室効果やオゾン層の破壊など地球環境にとっては悪影響をもたらす性質を持っています。そのため地球温暖化や環境問題に対する意識の高まりと共に、冷媒ガスも変化し、なるべく環境に優しいものを使う、廃棄する際は外部に放出しない、きちんと無害になるように破壊してから廃棄するなどの取り決めがされています。

    ここからは盤用クーラーに使われている冷媒ガスと地球温暖化の関係、その技術の変遷について見ていきます。

    冷媒としては優秀だがオゾン層破壊係数が高いCFC(全面廃止)

    昔、冷媒ガスといえば、いわゆるフロンガスといわれるCFC(クロロフルオロカーボン)でした。

    CFCに分類されるのは、単一冷媒だとR11(CFCI3)、R12(CF2CI2)、R113(C2F3CI3)、R114(C2F4CI2)、R115(C2F5CI)、R13(CF3CI)で、混合冷媒だとR500(R12+R152a)、R501(R22+R12)、R502(R22+R115)、R503(R23+R13)、R505(R12+R31)、R506(R31+R114)となります。盤用クーラーにはR12が主に使われていました。

    CFCは冷媒ガスとしての性能は高かったのですが、成層圏で分解されると発生する塩素が太陽からの有害な紫外線を遮ってくれるオゾン層を破壊することが分かり、さらに温室効果ガスとしての地球温暖化係数(GWP)も、R12で1万900、R11で4750、R502で4520と非常に高く、1987年のモントリオール議定書で生産中止・全面廃止が決定され、いまでは姿を消しました。

    温室効果は低いがオゾン層破壊係数が比較的高いHCFC(全面廃止)

    CFC廃止にともない、その代わりになるものとして使われ出したのが、代替フロンと言われるHCFC(ハイドロクロロフルオロカーボン)です。
    HCFCに分類されるのは、単一冷媒だとR123(C2HF3CI2)、R124(C2HF4CI)、R141b(CCl2F-CH3)、R22(C2HF2CI)。混合冷媒だとR401A(R22+R152a+R124)、R402A(R125+R290+R22)、R403A(R290+R22+R218)、R405A(R22+R152a+R142b+R-C318)、R406A(R22+R600a+R142b)、R408A(R125+R143a+R22)、R409A(R22+R124+R142b)、R411A(R1270+R22+R152a)、R412A(R22+R218+R142b)、R509A(R22+R218)があります。盤用クーラーにはR22が主に使われていました。

    HCFCは、地球温暖化係数はR22で1810、R123で77と比較的低いのですが、CFCほどではないもののオゾン層を破壊する性質を持っていました。そのためあくまでCFCとHCFCの次、オゾン層を破壊しない代替冷媒が開発される間のつなぎとして使われた冷媒ガスです。もともとモントリオール議定書では2020年に全面廃止すると規定されており、いまでは特定フロンに分類されて全面廃止になっています。

    オゾン層破壊係数ゼロだが温室効果が高いHFC

    次に出てきたのが、HCFCのさらなる代替品として開発されたHFC(ハイドロフルオロカーボン)です。

    HFCに分類されるのは、単一冷媒だとR23(CHF3)、R32(CH2F2)、R125(CHF2CF3)、R134a(CH2FCF3)、R143a(CF3CH3)、R152a(CHF2CH3)、R245fa(CHF2CH2CF3)。混合冷媒だとR404A(R125+R143a+R134a)、R407C(R32+R125+R134a)、R407E(R32+R125+R134a)、R407H(R32+R125+R134a)、R407I(R32+R125+R134a)、R417A(R125+R134a+R600)、R458A(R32+R125+R134a+R227ea+R236fa)、 R410A(R32+R125)、R507A(R125+R143a)、R508A(R23+R116)があります。盤用クーラーには、R134aが主に使われています。

    HFCはオゾン層に影響しないオゾン層破壊係数ゼロの代替冷媒ガスとして広く使われ、いまでは主流となっている冷媒ガスです。しかしながら地球温暖化係数が高めで、例えばR134aでは1430あります。

    そのためCFC、HCFCに続いてその利用に適切性が求められるようになりました。HFCを冷媒ガスとして使っている盤用クーラーは、第一種特定製品に相当するため、「フロン排出抑制法(フロン類の使用の合理化及び管理の適正化に関する法律)」における点検対象機器となります。

    オゾン破壊係数ゼロ、温室効果も低いが、燃焼性・毒性を持つHFO

    HFCの次の冷媒、オゾン層を破壊せず、温室効果にも影響を及ぼさないものとして開発されたのが、HFO(ハイドロフルオロオレフィン)です。
    HFOに分類されるのが、単一冷媒ではR1123(CF2=CHF)、R1224yd(CF3-CF=CHCI)、R1234yf(CF3CF=CH2)、R1234ze(CHF=CHCF3)、R1233zd(E)(CF3-CH=CCIH)、R1336mzz(Z)(XF3CH=CHCF3)です。盤用クーラーに使われているのは、R1234yf(CF3CF=CH)です。

    HFOは、オゾン層へ与える影響はなく、温室効果もHFCの6分の1程度と言われ、例えばR1234yfの地球温暖化係数は4とされています(IPCC AR5では1未満)。代替冷媒としては理想的なのですが、HFOはわずかに燃焼性があり、R1234yfもA2L(微燃性)とされています。また人体や環境に対する毒性の懸念があり、加えてHFOは冷媒としての効率も従来の冷媒ガスに比べて低く、環境には優しいのですが、利用の難しさが残っている冷媒ガスとなります。

    オゾン破壊係数ゼロ、温室効果はそこそこ低いHFC+HFO混合冷媒

    ちょうどHFCとHFOの中間に位置し、両者の良いとこ取りとなっている冷媒ガスとして開発されたのが、HFCとHFOをハイブリッドしたHFC+HFO混合冷媒です。HFOのように温室効果が極めて低いわけではありませんが、HFCほどは高くありません。また毒性はHFOよりも低く、燃焼性も無いものが多くなっています。
    これに分類されるのが、R448A(R32+R125+R134a+R1234ze(E) +R1234yf)、R449A(R32+R125+R134a+R1234yf)、R452A(R32+R125+R1234yf)、R454A(R32+R1234yf)、R454C(R32+R1234yf)、R463A(R744+R32+R125+R1234yf+R134a)、R513A(R134a+R1234yf)、R514A(R1336mzz(Z)+R1130(E))です。
    環境負荷をゼロにはできませんが、確実に減らすことができ、且つ使いやすいということで近年、急速に広まっているのが、このHFCとHFOの混合冷媒です。

    例えば、ヒートポンプ、エアコン、業務用冷凍冷蔵庫などでHFCのR134aの代替として広がっているR513Aの地球温暖化係数は631です。R134aは1430でしたので、R513Aの地球温暖化係数は半分以下になります。またR513Aの毒性・燃焼性はA1で無毒・不燃ですので、非常に使いやすく、現実的な冷媒ガスとして採用が広がっています。

    R513Aを採用したリタールの盤用クーラー「Blue e+ S」

    リタールでは、そのようなHFCとHFOの混合冷媒R513Aを使った盤用クーラーの新製品「Blue e+ S(ブルー・イープラス・エス)」を2022年7月から発売開始しました。

    もともと先行して販売していたBlue e+シリーズは、ヒートパイプとコンプレッサーのハイブリッド冷却を採⽤し、周囲温度が盤内温度より⾼い時にはコンプレッサークーラー、周囲温度が盤内温度より低い時にはその温度差を利⽤しヒートパイプ空冷式熱交換器として稼働することで、エネルギー効率の高い省エネ性能に優れている盤用クーラーでしたが、そこにR513Aを採用することで、R134aを使ったモデルよりも地球温暖化係数を56%低減し、さらに環境に優しい盤用クーラーとなっています。
    またLEDライトバーは、その発光色によって遠くからでも稼働状況や以上の有無が一目でわかります。NFC通信に対応し、スマートフォンアプリから製品管理やパラメーターの設定・変更ができますし、別売りアクセサリーのIoTインターフェースと接続するとネットワーク経由で遠隔監視ができるなど、メンテナンス性が向上しており、脱炭素・カーボンニュートラルにも有効で、使いやすいと上々の評価をいただいています。

    Blue e+ S 
    1000W、500W、300Wの3モデルをラインナップ

    Blue e+S-1
    制御盤は、デジタル化の進展にともなってAIやIoT、通信機能など高機能化し、機械の頭脳としてこれまで以上に重要な役割を担っていると同時に、それを処理するために多くの熱を発するようになっています。温度が上がれば処理能力にも影響が出て、正常な運転を妨げる要因になり、それを防ぐために制御盤内部を冷やす盤用クーラーの役割も重要さを増しています。
    その一方で、盤用クーラーにも脱炭素やカーボンニュートラルに向けてCO2排出量の削減が求められるなかで、最新の環境負荷の低いR513Aを採用している「Blue e+ S」を使い、制御盤の最大性能を引き出しながら環境に優しい運転を実現するのは、最良の現実解になるのではないでしょうか。




    盤内の温度管理・熱対策に最適な製品のご紹介
    『盤用クーラーシリーズ』
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