熱を瞬時に運ぶ素子ヒートパイプ―現代に欠かせない役割とは

銅やアルミといった金属が熱を伝えやすいことは知られています。しかし、これらの金属でできた棒の端を熱しても、反対側の端まで熱が伝わるまでには少し待たなければなりません。このような熱輸送を瞬時に、しかも大量に行うことができるのがヒートパイプです。高効率な熱伝導素子ヒートパイプの仕組みと特徴、さまざまな分野での用途を紹介します。

ヒートパイプの役割と構造

さまざまな場所に使われているヒートパイプですが、どのような役割を担うのでしょうか。また、その役割はどういった構造から成り立っているのでしょうか。

熱を輸送するヒートパイプ

ヒートパイプは熱を輸送する熱伝導素子です。産業機器や電化製品の多くは、発生する熱をどう処理するかが重要なテーマとなります。高機能で能力の高いものであればあるほど、熱の問題を避けては通れません。熱を、瞬時に輸送できるのがヒートパイプなのです。 熱輸送には、ヒートパイプの中に閉じ込められている液体の潜熱が利用されています。潜熱とは、物質そのものは温度を変えず、状態が変わることのみに費やされる熱のことで、融解熱や気化熱がこれにあたります。 ヒートパイプは熱を輸送することで、冷却・加熱・均熱のために使われています。

ヒートパイプの構造

一般的なヒートパイプは管の両端が閉じられた形で、管には銅やアルミのような熱伝導率の高い金属が使われています。内壁は毛細管構造(ウィック)を備え、網状のメッシュウィックや管の内部を加工するグルーブウィックが用いられています。管の内部は高度な減圧状態で、少量の作動液(主に純水)が閉じ込められています。 ヒートパイプの一端が加熱されると、減圧状態の内部では作動液がすぐに蒸発します。この現象で働いているのが、潜熱の移動による熱の吸収作用です。蒸発した作動液は蒸気流となり、加熱されていない温度の低いほうへと移動します。移動した蒸気は低温側の内壁に触れ、熱を渡しながらまた液体へと戻ります。これを、凝縮潜熱による熱の放出といいます。液体に戻った作動液は、毛細管構造を伝って元の場所へと戻り、まだ熱があれば再び蒸発・移動・凝縮を繰り返し、熱輸送を行います。これがヒートパイプによる熱輸送の原理です。 作動液の蒸気流は高速で移動し、蒸発・移動・凝縮のサイクルも早いため、ヒートパイプは瞬時に熱輸送が可能なのです。

ヒートパイプの特徴

熱輸送を行う素子として、ヒートパイプにはさまざまなメリットがあります。

  • 熱伝導率と熱輸送効率の高さ

銅やアルミのような熱伝導率の高い金属でさえも、丸鋼や丸パイプの一端を熱して熱を伝えようとすると、非常に大きな温度差が必要になります。しかしヒートパイプなら、わずか数度の温度差のみで熱を伝えることが可能です。こういった熱伝導率の高さ、熱輸送効率の高さがヒートパイプの大きな特徴です。

  • 素早い熱応答性

蒸発した作動液は音速に近いスピードで移動し、熱を運ぶとまた凝縮して液体に戻ります。この蒸発・移動・凝縮のサイクルも瞬時に行われるため、非常に高い熱応答性を持ちます。

  • 均一な温度分布

熱を運ぶ蒸気流は、温度のより低い部分で優先的に熱交換を行います。このため、全体が均一な温度分布となり一部に熱が偏ることがありません。

  • 動力不要で熱輸送・熱交換

ヒートパイプの熱輸送と熱交換には、動力が必要ありません。その構造と潜熱の作用により外部からのエネルギー供給を一切受けずに熱輸送が可能です。

  • 形状自由度の高さ

外径や長さを自由にできるだけでなく、曲げ加工・扁平加工も可能で、あらゆる形状にできる自由度の高さもヒートパイプの大きな特徴です。実装される部分のスペースに合わせた形状にすることができます。

  • メンテナンスフリー

密閉構造のヒートパイプはメンテナンスフリーで、外的な損傷や劣化がない限り半永久的に使えます。

  • 軽量

ヒートパイプの内部には少量の作動液があるだけなので、熱伝導素子として軽量です。この軽量さも、ヒートパイプが多くの場所に使われている理由のひとつです。

ヒートパイプの用途

ヒートパイプはさまざまな場所で使われています。その代表的な例を見てみましょう。

 

日常生活用品では

スマートフォンやタブレットといったモバイル端末には、高性能なCPUが組み込まれていますが、これらはほぼ例外なく大きな熱を発生させます。こういったモバイル端末を放熱・冷却するために活躍しているのがヒートパイプです。携帯用途の機器には、より軽量なアルミ製のヒートパイプが使われることもあります。 また、薄型テレビやHDDレコーダー、デジタルカメラなど、身近にある電化製品の多くにも内蔵されています。

オフィスやIT機器では

ヒートパイプのもっとも代表的な用途が、PCやワークステーションサーバのCPU冷却です。こういった機器は熱によって性能が左右されるだけでなく、過熱により物理的な損傷が生じた場合、データの損失という大きな問題につながるおそれもあります。これを防いでいるのがヒートパイプなのです。 また、コピー機やファックスといったOA機器、モデムのような通信機器にも使われています。

消費電力の削減に大きく貢献

ヒートパイプが活躍する場面が増えている理由として、消費電力削減志向の高まりがあります。LEDは照明の電力を大幅に削減できる一方、発生する熱の処理がひとつの課題でした。この放熱に活躍しているのがヒートパイプです。 ヒートパイプは形状自由度が高く軽量なことから、高い位置に設置することの多いLEDの冷却に適しています。スタジアムの投光器、体育館や工場などの天井照明、高速道路や空港の道路照明などは、大量の熱が発生します。これらのLEDを長寿命化し、消費電力の削減へとつなげる一端を担っています。

盤用熱交換器として高い性能を発揮

産業ロボットや工作機械の制御盤、操作盤の内部は、機器が発生する熱で高温になる場合があります。生産性の高い連続稼働を実現するためには、効率のいい安定した冷却方法が必要です。 そこで、盤の熱交換器に採用されているのがヒートパイプです。少ない消費電力で効率のいい熱輸送を行い、長寿命でメンテナンスフリーといった特徴が、安定した冷却を可能にしています。また、結露の心配もないためドレンホースの取り付けも、ドレン水のための排水溝工事も必要ありません。 ヒートパイプ式熱交換器は、冷却能力に関してはコンプレッサークーラーのような強制式にはおよびません。しかし、消費電力も少なく効率も高い点で、筐体の放熱装置として非常に優れているといえます。 ※ 筐体外部の温度が内部より低い場合に限り有効

身のまわりから最先端技術まであらゆるモノの熱を運ぶヒートパイプ

ヒートパイプの構造と原理、優れた特徴と用途を紹介しました。ヒートパイプはスマートフォンやテレビなど身のまわりの機器の内部に組み込まれ、熱を効率よく運び重要部品の過熱を防いでいます。また、IT機器や制御盤の冷却にも使われ、産業の進化を支える重要な役割を担います。消費電力が少なく小型で長寿命なヒートパイプは、モノが小型化し環境負荷低減が重視される現代において、今後一層注目を集めていくと思われます。

 

参考:

リタールの技術ライブラリ 「エンクロージャー及びプロセスの冷却」

dl_02.png ダウンロード

本書では、エンクロージャー及び機械類用の、未来志向で高エネルギー効率を特長とする冷却システムの可能性についてご説明します。 以下のような内容を95ページにわたって解説しています。

 

■  基本原理
  • なぜエンクロージャーが必要か
  • なぜエンクロージャーの熱対策が必要か
  • 熱放散の種類
  • 熱放散の物理系計算原理
  • なぜエンクロージャーにはヒーターが必要か
■    積極的熱放散
■    プロジェクト立案と運用のヒント
■    機械及びプロセスの冷却とは何か
■    ITクーリング

 

 

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