高い安全性能と優れた燃費性能は、現代の自動車に欠かせません。実際に自動車を購入し使用している一般ユーザーにとっても関心の高い内容である一方、その技術や施策については、理解が深まっていないのが現状です。
今回は、交通安全と環境性能向上の実現に欠かせない「ASV」と「先進安全自動車対応優良車体整備事業者」についてご紹介します。
ASVとは「Advanced Safety Vehicle」の略称で、日本語では先進安全自動車と訳します。
自動車技術が日々進歩する中、安全を守る新たな装置がいくつも開発されました。たとえば、昨今新車をはじめ多くの車両に装備されている衝突被害軽減ブレーキはASVを代表する機能の一つです。2022年現在では、緊急時にシステムから運転操作を引き継げる状態かつ、高速道路など一定の条件下において視線を外すことのできる「アイズオフ」を可能にした自動運転レベル3の車両が市販されています。
このように、交通安全施策の柱としてASV推進計画が国を挙げて進められており、カメラやレーダーなどの調整や自動運行装置の整備要件を定めた「自動車特定整備制度」が2020年4月から施行されました。
自動車の安全を守るASVにはさまざまな機能がありますが、この記事では代表的な3つの技術についてご紹介します。
自動ブレーキとも呼ばれる衝突被害軽減ブレーキ(AEBS)は、レーダー(センサー)やカメラによって前方の障害物を検知し、危険と判断した場合に警報が作動しブレーキの制御をおこなうことで衝突を防ぐ技術です。自動車や壁はもちろん、人や自転車なども検知でき、交通事故の減少に大きく寄与できると考えられています。
ただし、メーカーや車種によって機能する条件や性能にはバラツキがあり、100%の安全を保障するものではありません。
車線逸脱警報装置(LDWS)は、主にカメラを使って走行中の車線を認識し、車線を外れそうになった場合に警報を鳴らしてドライバーに知らせる機能です。車種によっては、パワーステアリングを制御する機能(レーンキープアシスト、アクティブレーンキープなど)が搭載されており、自動的に車線の中央に戻してくれます。
車線逸脱警報装置は、あくまで安全運転を支援し補助するための機能です。そのため、特定の条件下にあるレベル3以上の自動運転車でない限り、必ずドライバー自身がステアリングをコントロールしなければなりません。
アダプティブクルーズコントロール(ACC)とは、先行車との車間距離を一定に保つ機能です。カメラやレーダーによって先行車との距離を認識し、設定した速度を上限にアクセルとブレーキを自動で制御します。
メーカーや車種によって作動範囲や条件は異なりますが、渋滞時の停止から再発進まで車両側で自動制御されるモデルも開発されています。追突事故の防止はもちろん、渋滞時の疲労軽減も期待でき、現在発売されている多くの自動車にまで広く装備されている機能です。
ハイパワーなエンジンや豪華な装備が重視されていた時代を経て、地球環境の保護や燃料油の高騰、さらに高齢者による交通事故の増加などの諸問題を解決するため、令和の時代では、燃費と安全性能が重視されるようになりました。
各自動車メーカーは、ハイブリッド車をはじめとした燃料の電動化や、水素に代表される代替燃料への切り替えなど、燃費と環境性能に優れた車種を次々と開発。国土交通省による調査によると、2023年に販売された乗用車の平均燃費は、ガソリン乗用車の場合、WLTCモードで27.7 km/L、JC08モードで25.2 km/L となっています。また、2030年度を目標年度とする燃費基準は、平均で25.4 km/Lと設定され(2016年度の実績値19.2 km/Lから、32.4%改善)、新たに電気自動車やプラグインハイブリッド自動車が規制対象となります。
いかなる燃料を使用する場合でも、燃費を向上させるための有効手段は車体の軽量化です。車両の重量が増えれば、加速する際により多くのエネルギーが必要となり、同時にタイヤと路面との摩擦抵抗が増えることで燃費も増加します。そこで、燃費の向上を目指し多くの自動車に採用されているのが、高張力鋼板(ハイテン鋼)です。
高張力鋼板とは、一般的な鋼板よりも引っ張り強度の高い鋼板で、高い強度を持つ分薄く加工することが可能です。たとえば、同じ面積の外板パーツを作る場合には、鋼板を薄くできる分重量を抑えられ、軽量化に繋がります。
ただし、高張力鋼板は熱による歪みが出やすく、従来の熱で硬化するパテを使用した板金修理では、強度と見た目の両立が容易ではありません。高張力鋼板の修理には、専用の修復剤や設備に加え、高い技術力が求められます。
交通事故のない安全・安心な社会の実現と地球環境を守ることは、現代の地球に住む私たちが未来の地球に向けて努力し続けなければならない課題です。課題の解決には、ここまでご紹介したASVや高張力鋼板が採用された自動車を、より安全確実に使用していく必要があります。
そこで、全国の自動車車体整備事業者(板金工場など)が中心となって組織された日本自動車車体整備協同組合連合会(以下、日車協連)により、「先進安全自動車対応優良車体整備事業者」の自主認定制度が設けられました。
この制度では、先述したASVや高張力鋼板の修理(修復)にかかわる機器や技術を規定しています。先進安全自動車対応優良車体整備事業者の認定を受けるためには、大きく分けて2つの規定をクリアーしなければなりません。
一つは、ASVに欠かせないカメラやレーダーのエーミング機器です。
ASVが搭載された自動車には、車体と対象物の距離を正確に把握するためのカメラやレーダーが車体のあちこちに設置されています。カメラやレーダーは正しい位置に取りつけなければならず、脱着した際にはエーミング(校正作業)が必須です。先進安全自動車対応優良車体整備事業者として認定を受けるためには、エーミングに必要な汎用スキャンツール標準仕様機の設置が求められます。
もう一つは、高張力鋼板の補修にかかわる機器と技術です。先述した通り、高張力鋼板は従来通りの板金作業では修復が難しく、特殊な技術やスポット溶接機をはじめとした機器を持つなど、さまざまな要件を満たしていなければなりません。
エーミングと板金作業のどちらにも、高い技術と専門性が不可欠です。そのため、日車協連が策定する「高度化車体整備技能講習」を毎年受講した自動車車体整備士を事業場内に配置する必要があります。
いま自動車には、事故を未然に防ぐ高い安全性と、地球環境に配慮した優れた燃費性能が求められています。この二つの性能を担保するためには、衝突被害軽減ブレーキに代表されるASVと、軽量化により燃費性能を向上させる高張力鋼板が欠かせません。そして、万が一自動車が破損してしまった場合でも、元通りの性能に戻せる高い修理技術が必要不可欠です。
これまで、高い技術力は“職人の腕”と言われ、一般のユーザーはその優劣を容易には判断できずにいました。しかし、明確な基準を設けた「先進安全自動車対応優良車体整備事業者」制度により、ユーザーは安心して愛車の修理を依頼できます。「見える化」された制度の導入は事業者自身の意識向上をもたらし、より高品質なサービスの提供の実現に繋がるのではないでしょうか。
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