製造業に携わる人にとって、「我々もモジュール化を進めないと」といった発言を耳にすることもあるのではないでしょうか?モジュール化を推進することによって、開発がしやすくなり、組み立て工数が減るなど、さまざまなメリットがあるようです。本記事ではモジュール化の概念からメリットや課題について解説します。
モジュールとは、製品やシステムをいくつかの機能や構成に分割したものです。複数の関連のある部品を一つのモジュールと定義し、モジュールごとにインターフェースを決めることによって、部品間の調整をシンプルにしています。
英語では「module」と書き、建築における基本単位を表します。歯車にも歯の大きさの単位としてモジュールという言葉が使われています。このようにさまざまな場面でモジュールという言葉が使用されています。
一つの製品をモジュール単位に分割して、モジュールごとに開発するチームや製作する外注先を分けることをモジュール化といいます。例えば、パソコンではメモリやCPU、HDD、OSがモジュールとなって、それぞれ違う会社が製作しています。
モジュール化は個々の機能を組み合わせることで製品を完成させるという概念があります。顧客ごとに違う仕様の要求があったとしても、一から開発しなおすのではなく、モジュールの組み合わせを変えることで要求に対応した製品を短いリードタイムで製作できるようにします。
モジュール化によって、次の効果が期待できます。
モジュールごとに独立して開発することで、すり合わせを少なくし、構成要素(部品)の規格化・標準化を進めて、その相互依存性を少なくすることができます。その結果、開発期間が短縮でき、製品のリードタイムが短くなります。また、全て自社で開発していたものをモジュール単位に分けて外注することで、自社の開発リソースが削減できます。
モジュールの間でインターフェースや仕様が変わる条件を明確にさえしておけば、それ以外の項目は各開発チームである程度自由に設計できます。一部の変更のために、全体のレイアウト変更などの必要がなくなり、変更するモジュールだけの再設計で対応できるので、設計時間を短縮できて部品の共用化も可能です。
不具合が発生したときに、原因を特定しやすく、モジュールを交換すれば対応できる場合があり保守性に優れています。
インテグラル型とは「すりあわせ」と呼ばれ、個々の部品を相互に調整して最適な製品を作るために適した製品開発の考え方になります。自動車や精密機械がインテグラル型の代表例です。モジュラー型が機能とモジュールがほぼ1対1であるのに対して、インテグラル型は1機能が多くの部品から構成されます。
インテグラル型はモジュール型と対比する考え方です。日本はかつてすり合わせの開発方法によって、自動車生産台数世界一を記録したことがありました。自動車の場合は各部品の相互依存が大きく複雑なため、現在でもインテグラル型が優位で、多くの開発関係者はすり合わせの重要性を重要視し、調整能力が高度化してきました。
近年、少子高齢化や人口減少に伴う労働者人口の不足や働き方改革の進展により、労働時間が限られてきており、業務の効率化がよりいっそう求められています。このような背景からモジュール化による開発効率の向上や生産時間の短縮が求められています。
また、多様化した顧客の要求に対応できるようにするためモジュール化設計を導入する企業が増えてきています。自社の内部を見ると次のような課題があり、モジュール化の推進によって改善したいという意見もあります。
・製品開発の進め方を標準化していない。設計ノウハウが属人化されている。
・製品ラインアップ全体を俯瞰せず、個人の範囲で担当している製品に注力している。その結果、設計思想の異なる製品ができる。
マーケットシェアの拡大を狙うために海外進出を推進する企業が増えてきています。海外に販路を開拓するにあたって地域ごとに適した仕様にカスタマイズする必要があります、変更するモジュールだけを変えて、あとは日本と同じ部品を共用できれば、海外展開の期間も短くなります。
製品のサイズを極限まで抑えたり、性能を最適化したりするなど、製品全体の仕様や性能を今以上に仕上げたい場合、モジュール単位の設計が弊害になる場合があります。モジュール化によってシステム全体が汎用的で独自性に欠ける設計になり、他社との差別化できない可能性があります。
また、モジュール単位で部品メーカーに開発製造を託す場合、ソフトウェアの内容や設計思想などがブラックボックス化し、完成品メーカーの意図通りに設計が進まない可能性があります。
ただ、モジュール化によって、部品メーカーがある程度自由に設計できるようになることは、部品メーカーにとってはメリットと言えるでしょう。自社の技術にできればその分値下げ交渉にも強気の姿勢で臨むことができます。しかし競合他社が多くコモディディ化が進めば、他の部品メーカーとの価格競争に陥る場合もあります。
社内の中での課題もあります。それは、部門によって、モジュールの考え方が異なる場合があるということです。例えば設計で考えたモジュールが製造ラインの状況によってはモジュール単位で組み立てられず、設計と製造でそれぞれが考えているモジュールが一致しないなどです。
部品の共用化と、互換性のある部品の開発をすることによって、モジュール化を目指します。製品ごとに開発担当を分けるのではなく、モジュール単位で開発チームを構成することで、各製品に同じモジュールを使用できるような開発体制を構築します。
モジュールごとのインターフェースと担当者を明確にします。例えば盤と盤をつなぐ場合はコネクタの仕様や入出力の信号や電圧電流がインターフェースになります。
業務秘匿契約によって、メーカーと技術的なノウハウを共有することや、メーカーが他のメーカーに技術を公開しないことを契約すれば、完成品メーカーの設計ノウハウ流出を防ぐことができます。
各モジュールの設計基準を確立し共有できるようにしておきます。製品に使用する部品の構成をBOM(部品表)で管理します。このときのBOMはモジュール単位で構成するようにします。また、製品仕様の違いはコンフィグレーションで管理しましょう。コンフィグレーションとは各製品仕様に応じたモジュールの組合せのことです。
モジュール化の推進は、これまでやってこなかったことをやるので、最初は工数が増えることを承知でチャレンジする必要があります。新たな制度を導入するためには関係者の理解が必要です。目的を共有して全員で同じ方向を目指しましょう。
一例として盤のモジュール化を紹介します。モータを動かすための盤をモジュールで組み立てる場合、電源盤、PLC盤、リレー盤、フィルタ盤、ロボット制御盤、インバータ盤など、各種盤を小さいサイズの盤で製作しておきます。ケーブルでつなげばそれぞれ離れた位置に配置でき、工場のレイアウトに柔軟に対応できるメリットがあります。駆動するモータを誘導モータからサーボモータに切り替える場合は、インバータ盤をサーボ盤に切り替えるなど、モジュール化によって盤全体を設置しなおすのではなく、変更する盤だけの交換ですみます。
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