長年にわたり築いてきた「日本国産」という国際ブランド力が、近年では低下・消失傾向にあるといわれています。企業の生き残りのためには、国際的な競争力を見出す必要があります。
そこで注目されているのがグローバルスタンダードに対する取り組みです。国内外規格を取得することで製品販売やサービス普及の後押しとなることはもちろん、新たなビジネスチャンスが生まれる大きなきっかけとなります。
本記事ではグローバルスタンダードの重要性や、製造業の標準化への取り組みについて、ISO9001取得を例にあげて詳しく解説します。
グローバルスタンダードとは、世界共通の基準や規格、ルールのことです。ISO(国際標準化機構)やIEC(国際電気標準会議)などの国際規格や公的認証だけでなく、「信号機の色や並び」「航空機の右側通行」といったルールも「グローバルスタンダード」として世界中で使用されています。
なお「グローバルスタンダード」は和製英語であり、世界規模では「インターナショナルスタンダード」という表現が適切です。
近年、製造業における「日本国産」というブランド力が低下傾向にあり、中国をはじめとするアジア各国に遅れをとっています。「日本製」や「高品質」を謳うだけでは製品が売れないため、各企業の生き残りのためにも国際的な競争力を見出す必要があります。
そこで重要視されているのが各企業のグローバルスタンダード取得です。企業や製品の海外進出が一般化しているなか、グローバルスタンダードに足並みを揃えることで国内外規格を取得できれば、製品やサービスの販売・普及にとっても大きな追い風となります。
自社に有利なグローバルスタンダードに介入したり、新たなスタンダードを形成し普及させることでグローバルスタンダード化を目指す動きが進められています。
製造業がグローバルスタンダードに足並みを揃えるために欠かせないのが、業務の標準化です。国際的な規格を満たすシステムを構築することはもちろん、自社で新たに標準化した仕組みがグローバルスタンダードとして世界に認知・利用されていけば、市場において大きな優位性となります。
製造業においても各企業が積極的に標準化に乗り出す動きがあり、今後の競争力向上にとって欠かせない取り組みとして注目を集めています。
標準化とは、担当者に関わらず一定の品質で業務を行うために手順や仕組みを整理・構築することです。製造業においては、作業が標準化されていなければ作業者によって作業時間や品質のバラつきが生じてしまい、安定した生産活動を行うことは困難といえます。
製造業の標準化には以下の2つの目的があります。
新人教育に対するリソース削減
製造業では就業者の高齢化・減少が進み、人材不足に陥っています。そのため、限られた人員の中で新人教育を進めなくてはならず、OJTなどによってベテラン社員がつきっきりで指導する時間がなかなか確保できません。
業務の標準化により新人社員がマニュアルに沿って自発的に作業する環境を整えることで、社内の人員やコストといったリソース不足を大きく解消することが可能です。
製造業ではなかなか避けることができないのが、特定の人間だけに業務が委ねられている状況を指す「属人化」です。属人化は1人の社員に対する負担が大きくなり、休職や退職など予期せぬ人員変動が発生したときに業務が停止してしまうリスクを抱えることにもなります。
また、属人化が起こると品質面においても作業者によるバラつきが生じることになり、突発的な大量発注などに対応するのは非常に困難です。
こうした問題を防止するためにも標準化は不可欠な取り組みです。
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ここでは製造業における標準化について、代表的なグローバルスタンダード「ISO9001」の取得を例にあげて解説します。
ISO9001は製造業において最重要といわれる国際規格です。170を超える国で利用されている品質マネジメントシステムに関する規格で、製造業の標準化にとっては不可欠なものです。
ISO9001を取得している企業は、国際基準の管理のもとで製造から納品までを行っていることを示すことができます。また品質だけに注目しがちですが、ISO9001は価格や納期といった「顧客満足」を達成することを最終的な目標として掲げています。
ISO9001の具体的な取得手順は以下のとおりです。取得を通じて企業は品質マネジメントシステムが改善され、生産効率や品質が飛躍的に向上します。
・ステップ1:計画
取得範囲や取得期限、予算、外部サポートの有無、審査期間など、取得に向けて社内で十分な検討を行います。
・ステップ2:システム構築
自社の規模や状況に応じて適切な品質マネジメントシステムを構築し、PDCAサイクル(計画、実行、評価、改善)に準じた運用を行います。
・ステップ3:審査
ISO審査機関による審査によってISO9001の要求事項を満たしていることが承認されると規格取得となり、取得後はWebサイトや名刺にISO9001認証企業と掲げて営業活動を行うことが可能です。
製造業にとって標準化は不可欠なものですが、実行する際にはいくつかの注意点があります。
ベテラン社員が長年の経験によって培った細かな作業ニュアンスなど、標準化が難しい業務もあります。まずは標準化する業務を明確にしたうえで、優先度の高いものから確実に取り組んでいくことが重要です。
標準化は同じ作業を「正確に」「迅速に」というルーティンにおいては、非常に効果を発揮します。一方で、イレギュラーが起きた際の対応力などを育てることが難しく、人材育成という観点においては、過去の不具合やミスを学習する環境を与えることも大切です。
特に中小企業など小規模な職場においては、ベテラン社員の長年の努力によって担保されてきた技術が存在します。
標準化によってその技術が簡単に新人社員に引き継がれることで、ベテラン社員のモチベーション低下を引き起こす場合もあり、ときにはベテラン社員が技術や作業のコツを抱え込み、上手くマニュアル化できないという問題に発展してしまいます。
そのため、標準化実行の際には丁寧な個人面談を行うなど、慎重に進めることが大切です。
グローバルスタンダードによって達成される作業効率や生産性の向上は、デジタル技術の導入によっても実現することが可能です。町工場や中小製造業においては社内リソース・コスト面の問題もあり、グローバルスタンダード取得が最善策とは限らないケースも多く存在します。
冒頭で解説したとおり、国際的な競争力向上のためにもDX推進やIT化による業務効率化が近年急務とされています。生産管理システムなどITツールの導入、IoT機器によるスマート工場化など、あらゆる施策が企業のリソース不足解消に直結しており、製造業においてもデジタル技術導入への期待値は非常に高いといえます。
グローバルスタンダードは今後の製造業にとって欠かせない存在ですが、そこに固執せず各企業の規模感や状況に合わせた柔軟な対応を検討することが大切です。
近年の日本の製造業では、国際的な競争力向上が急務といわれています。そこで注目されているのが国内外の様々な公的規格取得を含めたグローバルスタンダードへの取り組みです。製品やサービスをグローバルスタンダードに適合させることで、認知度は大きく上昇し、新たなビジネスチャンスを得る機会も飛躍的に増加します。
また、製造業がグローバルスタンダードに足並みを揃えるうえで重要となるのが業務の標準化です。既存のグローバルスタンダードを導入することはもちろん、自社で新たに標準化したシステムがグローバルスタンダードとして世界に普及すれば、市場における優位性は非常に高いものになるでしょう。
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