水や空気の流れは、人の目で確認するのは難しいものです。また、それらが持つ熱がどのように伝わっているかも、直接目で見ることはできません。こういった水や空気などの流体の動き方、熱の伝わり方を可視化できれば、さまざまな課題の解決につなげることが可能です。今回はこれらの流体や熱の動きを視覚化することが可能な、熱流体解析についてご紹介します。
熱流体解析の対象となる熱流体とはどのようなものか、その概要から見ていきましょう。
流体は、常温において液体や気体で存在するもの全般を表します。
例えば、空気や水のような物質は、定まった形にとどまらずに流れる性質を持っています。こういった流れる性質を持つものを総称して流体と呼びます。
空気中や水中、または特定のガスや液体の中に物体があるとき、その物体は流体に囲まれていることになります。この流体が周りにある状態で物質が移動したとき、流体がどのような動きをして物質にどのような力学的作用を及ぼすのかを考えるのが流体力学です。
一方、流体は熱を伴って移動しその熱を別の物質に伝達する作用も持ちます。
こういった流体による熱の伝達に関する伝熱工学も含め、流体による物的作用と熱作用を合わせて考えるのが熱流体工学です。また、熱流体の作用について解析するのが熱流体解析です。
熱流体解析では流体と熱の移動を可視化し、物体や周囲に対しどのような作用を及ぼすのかを予測します。
では、熱流体を解析することで何が明らかになり、その情報はどのように活かされるのでしょうか。
人類の歴史において最も古くから使われた乗り物、船を例に考えてみます。
船は、常に水という流体の中で進んでいく乗り物です。船が効率よく進んでいくための形状は、古くから人間が直感的に予想し、舳先(へさき)を丸くしたりとがらせたりして進化してきました。
この予想こそが、初歩の流体解析と言えるのではないでしょうか。
蒸気機関やエンジンといった動力を得たあとは、さらに流体解析が重要になりました。スクリュープロペラがどのように水を押すことで船が推進するのかも重要となり、船体形状だけでなくより複雑な流体の動きを考える必要性が大きくなりました。
こういった流体を押し出すことで推進力を得る技術は、後に空気中を飛ぶ飛行機、さらに宇宙空間へ到達するロケットの技術にもつながっていきます。
船や自動車、飛行機やロケットのように、水や空気などの流体の中を進む乗り物は、効率を考えると流体との関わりが重要です。
従来、こういった設計は2次元で行われてきましたが、現代では3次元での設計が主流です。流体との関わりを3次元で考えることが可能になったことで、熱流体解析の応用範囲はさらに広がったと言えます。現代では、熱流体解析が関わる乗り物の効率に関するものだけではなく、電気機器の高性能化を支える技術としても応用されています。
電子機器は時代が進むごとに高度化し、それと同時に小型化も繰り返してきました。一般的に、処理能力の高度化は機器の発熱量を大きくし、小型化は放熱効率を低下させるため、高度化・小型化は機器の冷却に関して矛盾を抱えています。
こういった矛盾を解決するためには、いかに効率よく発熱する部品から熱を奪い、別の部分へと逃がすかを考える必要があります。
例えば、多くのパソコンやサーバーでは、空冷式が採用されています。ファンによって外部から空気を送り、内部の機器から熱を奪い、温められた空気を再び外部へと放出することで冷却しています。
こういった空冷式では、空気という流体によって放熱効率が決まり、放熱効率に合わせて搭載できる機器の能力も左右されます。もし、放熱効率を超えるほど発熱する機器を搭載すると、熱によって機器が損傷、火災のような事故発生の可能性も高まるためです。
このように重要な放熱効率を考える上で重要になるのが、熱流体解析です。いかに流体が熱を奪いながら移動していくかを可視化することで、冷却の最適化を図れます。
高度な処理能力を持つ発熱量の大きな電子機器の設計には、熱流体解析が欠かせないものとなっています。
盤用クーラーシリーズ
熱流体解析には、熱流体解析のためのソフトウェアが用いられます。
流体解析ができるソフトウェアは熱伝達に関しても計算できるものが大半で、CFD(Computational Fluid Dynamics)という略称でも普及しています。
これらのソフトウェアでは、流体と熱の移動をシミュレーションし、可視化して動画として表示できるものが一般化しています。空気や水といった流体は普段目に見えないため、熱流体解析ソフトウェアによって視覚的に認識できるようにしシミュレーションすることが可能です。
熱流体解析は、今後さらに広い分野で必要とされると考えられます。
例えば、自動車の設計においては、推進力改善によってCO2排出量の削減につなげることが可能です。また、出力の少ない新エネルギーでも、推進力が改善されることで走行が可能になる可能性もあります。自動車の転換期と言われる今は、流体による作用を考える重要度がより大きくなっていると言えます。
電子機器で言えば、現代ではスマートフォンやタブレットなど、携帯可能な端末機器による情報共有が当然となっています。こういった小型の電子機器では、ヒートパイプが冷却に使われています。
流体の移動によって熱移動を行うヒートパイプの研究や配置の設計においても熱流体解析によってシミュレーションが行われます。
熱を効率よく運んでくれるヒートパイプ、その特徴とメリット|リタール
ロボティクスは、製造業や物流業だけでなく、小売業や医療分野でも注目されています。今後ロボットの活用はあらゆる分野において進んでいくでしょう。こういったロボットの制御に必要な制御盤は、盤自体の小型化が進む反面で、盤内の機器も高度化し、熱対策がより重要になっています。ロボットを活用していく上で、制御盤内の熱流体解析も重要度を増しています。
水や空気などの流体や、それらが伝える熱の移動は人の目で直接見ることができないものです。しかし、これらの流体の動きや熱の伝わり方を操ることができれば、さまざまなことの効率を向上させられます。熱流体解析によって設計を効率化することで、地球環境の大きな課題であるCO2排出量の削減につながる部分も少なくありません。熱流体解析は、多くの分野で今後さらに重要となっていくと考えられます。
関連記事
・制御盤用キャビネット・ボックスの熱対策
筐体の鋼材削減でCO2排出量を削減
カーボンフリーに貢献:次世代の制御盤
参考: