制御盤内の配線には必ず使われるマークチューブ。作成や取り付けには多くの手間と時間を要しますが、なぜ必要なのでしょうか。今回はマークチューブが持つ重要な役割とマークチューブの注意点や問題点を考えます。
配線に使用されるマークチューブにはどういった目的があり、どのような種類があるのでしょうか。早速見ていきましょう。
「マーク」は「目印」という意味の言葉です。ここから、「目印となるチューブ」という意味で、配線に目印を付ける意味で使われるのがマークチューブです。
マークチューブは配線のミスを予防し保守作業を容易にする役割を担います。また、端子圧着部の絶縁としても使われます。
多くの配線が交差する制御盤では、保守作業者の道標となり、設計者や製作者の意図を第三者へ伝える重要な意味を持ちます。
マークチューブにはサイズや材質によって種類があり、特殊な機能を持ったものもあります。
マークチューブのサイズは、電線の被覆外径に合わせてさまざまな大きさがあります。電線サイズは芯材の太さを直径または断面積で表されるのに対し、マークチューブは多くの場合、内径の直径で表されています。信号線に使う2.0mmほどのものから多芯キャブタイヤケーブルに使う10mmを超えるものまで、ニーズに合わせて多種多様なサイズが用意されています。
一般的には難燃性に優れ、ほどよい柔らかさと摩擦があるPVC(ポリ塩化ビニル)が使われています。
文字の見えやすい白色をはじめ赤や黄、青、黒など、識別のため色分けするケースもあるため、さまざまな色のものがあります。
「線番」と呼ばれるように、従来は配線図に書かれる番号で識別するようにしていたため、英数字のみが印字されていました。しかし最近は、需要に合わせて漢字や記号の印字も可能になっています。
加熱によって収縮する性質を持たせたものは、本来のマークチューブの役割を果たしながら、同時に絶縁用の収縮チューブとしての機能も果たします。フラットチューブとも呼ばれる、断面を楕円形にしたものもあります。弾性によって電線を挟むため定位置に留まるのが特徴で、ずり落ちにくい形状です。
マークチューブは100mや200mでのロール状で販売されているもの、数十cmでの切り売りのものなどがあり、チューブプリンターやチューブマーカー、ケーブルマーカーなどのように呼ばれる専用のプリンタで印字されます。切断機能があるものや、切断専用機と連動できるものなど、さまざまな種類があります。
マークチューブを使う際、気を付けなければならない点や、これからの制御盤製作・保守作業において課題となる可能性のある点があります。
マークチューブを配線に通す際、まずは「向き」に気を付けなければなりません。慣例的に、マークチューブは見やすい向きで統一するというのがルールです。
端子台が横長方向に設置されていて上下から端子を接続する場合や、開閉器に下から接続する場合には、マークチューブに印字された番号は下から読むように取り付けます。このとき、端子台に上下から接続する場合にはマークチューブの向きが逆になってしまうことに気を付けなければいけません。
例えば、下から接続する配線に2桁の番号を印字したマークチューブを付ける場合には、端子側に一の位、電線長手側に十の位がある向きにします。反対に、上から接続する配線では端子側に十の位、電線長手側に一の位となります。
上下の配線ともに、「首を左にかしげてみると読みやすい向き」と覚えておくといいでしょう。
端子台が縦長方向に設置されていて左右から端子を接続する場合や、スイッチング電源に横向きに接続する場合は簡単です。端子を接続した状態で、マークチューブの印字が普通に読めるような向きで取り付けます。
この場合も、左から接続する配線と右から接続する配線ではマークチューブの向きが逆になりますので注意しましょう。2桁の線番の場合、端子台の左側の配線は端子側が一の位、右側の配線は端子側が十の位となります。
マークチューブは必ず偶数で用意します。これは、マークチューブを電線の両端に付けるためです。最初に偶数個で用意しておけば、片端だけ付け忘れた場合に気付くことができます。
端子が細い場合は、マークチューブの脱落に注意しなければなりません。また、適合サイズを使わないとケーブルを自由に移動してしまうこともあります。マークチューブは電線外径に適合するサイズのものを使うのが原則ですが、どうしても完全に適合するサイズがない場合もあります。こういった場合には、熱収縮タイプや楕円形タイプ、滑り止め付きタイプを使用することで脱落やずれを予防します。
印字・切断したマークチューブが容器に乱雑に入れられた状態では、マークチューブを取り付けながら配線作業を行う場合に、非常に作業効率が悪くなります。
テープの粘着面に並べる、チューブホルダーを使うなどの方法で対策すると、配線作業者の効率向上が望めます。
日本の制御盤製造においては、マークチューブの使用は必須と言える環境が整っています。マークチューブの作成という工数が増え、配線作業時の手間と時間がかかりますが、それを上回るメリットがあるためです。
しかし、欧州ではマークチューブを使う習慣がありません。その理由として、欧州ではフェルール端子と呼ばれる棒状の端子が主流で、マークチューブが抜け落ちやすいため普及しなかったことがあります。
では配線をどのように識別しているのかというと、ケーブルの被覆に直接印字する方式がとられています。この方法では、制御盤製作の工数は減るため製作時間は短く部品点数も減るというメリットがあります。ただし、マークチューブに比べ視認性が良くないという点がデメリットです。
欧州で使われているフェルール端子は、効率的でリードタイムの短い制御盤製作が求められる日本でも注目されつつあります。日本配電制御システム工業会の調査報告でも、制御盤製作の省コスト化における課題解決手段として紹介されています。
しかしマークチューブのメリットは大きく、今後フェルール端子の採用が増えたとしても、日本ではマークチューブが廃止される可能性は低いと考えられます。マークチューブ作成や取り付けの自動化や、マークチューブの熱収縮・滑り止め機能向上といった方向性で進化していくのかもしれません。
なお、フェルール端子については、「フェルール端子とプッシュイン方式―日本でも注目度が急上昇している理由」で紹介していますので、ご参照ください。
マークチューブの持つ役割とそのメリット、使用についての注意点や今後の課題についてご紹介しました。
マークチューブは、制御盤設計時に込められた情報を保守担当者へと伝える重要な役割を持っています。もしマークチューブがなければ、保守担当者は配線を追いかける作業に膨大な時間を費やさなければなりません。こういった保守作業まで含めて考えると、制御盤製作時のマークチューブ作成・取り付け作業は非効率とは言えず、必要なものだとわかります。今後さらに制御盤製作の効率化が加速していくと考えられますが、マークチューブに関する作業もより効率的な手法が研究されていくのではないでしょうか。
関連記事:フェルール端子の普及と制御盤製造の変化
参考: