電圧を上げたり下げたり、自在に変換することができる装置、それがトランス(変圧器)です。トランスはどのような原理で電圧を昇降させているのでしょうか。また、電圧変換のほかに使われるトランスの用途とはどのようなものでしょうか。
トランスは、1,000M(メガ)VAを超える発電所や変電所で使われるものから、電子回路用の数センチサイズのものまで種類はさまざまですが、原理は共通しています。
四角く環状になった鉄心にふたつのコイルが巻かれているものが、トランスの基本構造です。
片側のコイル、1次側コイルに電圧をかけると、コイルの中を通っている鉄心に磁束が生じます。この電圧が直流であれば鉄心は単純な電磁石になりますが、交流の場合磁束の向きが周波数に合わせて交互に入れ替わります。このとき、反対側にある2次側コイルでは、中を通る鉄心の磁束の向きは同様に交互に入れ替わり、レンツの法則が働きます。レンツの法則とは電磁誘導に関する法則で、コイルの中の磁場が変化すると、電磁誘導により電流が生じ、電気が磁場の変化を妨げる向きに流れるというものです。1次側コイルに交流の電気を流すと、鉄心の磁束の向きが入れ替わるので、2次側コイルに電磁誘導が生じ、一定の電気が流れ、電圧が生じます。これがトランスの原理です。
このとき、コイルの巻数と電流の大きさは比例するため、コイルの巻数を調整することにより1次側と2次側の電圧を変えることができます。このように交流電圧の特性を応用することで、トランスを用いて自由に電圧を変化させることができるという点が、交流電源が広く使われている理由でもあります。
また、トランスを使えば、1次側コイルと2次側コイル間で直接の導通がなくても、1次側に交流の電気を流すことで2次側にも電流を通すことができます。この特性により、トランスは電圧の変換だけでなく、さまざまな用途に利用することができます。
トランスが果たす役割として、電圧の昇降は広く知られていますが、トランスの用途はこれだけではありません。以下のように、さまざまな使われ方があります。
これが最も知られるトランスの用途です。電力用トランス、配電用トランス、またはただトランスといったときにはこの目的で使われているものを指します。
1次側と2次側で直接導通せずに電気を流すことができる特性を使い、複数系統間の絶縁目的で使われるのが絶縁トランスです。タイトランスと呼ばれることもあります。
主に電力会社の変電所などで使われているのが、接地トランスです。EVTと呼ばれることもあり、インピーダンスを設け接地することで、高圧配電線のような非設置系統において地絡を検出する目的で使われます。
大容量電動機の始動時、始動用トランスによって減圧することで始動電流を制限します。加速後に全電圧を印加することで円滑な始動をするために使います。
定電流変圧器、磁気漏れ変圧器、漏洩(ろうえい)変圧器のように呼び方はさまざまですが、どれも目的は同じです。鉄心に磁束漏れが起こる構造を設けることで、二次電流の増大をある一定値で抑える役割を果たします。
1次側コイルと2次側コイルが絶縁されている特性を応用し、ノイズの混入をしゃ断する目的で使われるのが、ノイズカットトランスです。インバータやモーターは常にノイズを発生させています。これが電気・電子機器へ影響をおよぼすのを、コモンモード、ノーマルモードどちらも効果的に防ぐことができます。
このような用途別のほかに、トランスは、相数・巻き数・構造の3つの基準から分類して考えることができます。
トランスの原理と用途、構造や使われる絶縁体による分類を紹介しました。このようにトランスにはさまざまな用途があり、あらゆる場所に設置され利用されていますが、だからこそ取り扱いには注意が必要です。人体の直接接触を防ぐ、また機器そのものを保護するといった意味でも、適した設置場所を選びましょう。トランスは熱の影響を受けやすいため、過熱させないことも大切です。放熱・冷却のための構造を持ったボックス・キャビネット内に設置するようにしましょう。
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参考:
総合カタログ35
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