リタール BLOG

サーマルリレーの選定・設定方法―過負荷から電動機を保護するために

作成者: admin|Jan 22, 2024 5:00:00 AM

電動機を使用する制御盤には、必ず組み込まれるサーマルリレー。制御盤のなかでサーマルリレーはどのような役割を持っているのでしょうか。サーマルリレーの動作原理とリセット方法、選定や設定の注意点を解説します。

サーマルリレーとは

サーマルリレーは熱によって動作する保護継電器です。これがどういった目的で使われ、どのような原理で動作しているのか詳しく見てみましょう。

サーマルリレーの役割

サーマルリレーがよく使われるのは、三相モーターに対してです。
三相モーターを含む誘導電動機は、過負荷状態で運転すると巻線の温度が過昇します。この状態が続くと、巻線の温度は許容範囲を超え絶縁不良を起こすことになります。さらに、温度の上昇が続けば、部品の焼損を招く恐れもあります。

こうしたトラブルから電動機を保護するために、異常電流による温度上昇を検出し電磁接触器を動作させ、電路を遮断するのがサーマルリレーの役割です。

なお、海外向け制御盤製作に必要な、国内外の安全規格について詳しくまとめた資料を以下の画像よりダウンロードすることができます。サーマルリレーをはじめ、制御盤内の部品には安全保護の観点から準拠しなくてはならない規格や要件が多数存在します。制御盤の製作を検討する際に、ぜひお役立てください。▼画像をクリック▼

サーマルリレーの仕組み

電磁接触器が電気によって作動するのに対し、サーマルリレーは熱によって作動します。この熱による作動原理において重要なのが、内部のヒーター線とバイメタルです。
サーマルリレーの内部では、電源側と負荷側の接続線にヒーター線が使われています。ヒーター線はその途中で、バイメタルにコイル状で巻かれていて、異常電流が流れたときにはヒーター線が発熱するようになっています。熱はバイメタルへと伝導し、バイメタルが湾曲することによって接点が離れる(オープンする)のがサーマルリレーの作動原理です。

熱によって接点が作動する機械的な機構をヒートエレメントと言い、バイメタルとヒートエレメントによって電路の開閉をするのがサーマルリレーの仕組みなのです。

一般的にはサーマルリレーが作動するための接点を電磁接触器のコイル端子に接続し、サーマルリレーが作動することで電磁接触器の接点が作動するように使われます。サーマルリレーの接点を大きな電流が直接流れるわけではありません。

サーマルリレーがトリップしたら

トリップとは「外れる」、「切れる」といった意味の言葉で、サーマルリレーが作動し、強制的に回路を遮断させることを指します。接続している機器に過電流が流れた際に、発熱を検出するとサーマルリレーが作動する仕組みです。また、過電流には漏電や短絡、ゴミ噛み、過負荷などあらゆる原因が考えられます。  

では、実際にサーマルリレーがトリップしたときにはどのような対応をしたらいいのでしょうか。

サーマルリレーが作動する条件

日本電機工業会規格JEM 1357では、サーマルリレーの作動条件を次のように規格しています。

  • 動作値は、電流整定値の105~125%の範囲内であること
  • 電流整定値の600%を超える電流が流れたとき40秒以下で動作すること
  • 電流整定値の200%を超える電流が流れたとき4分以下で動作すること

規格に適合しているものであれば、このような条件でサーマルリレーは働きます。そこで注意しなければならないのが、始動電流の大きさと時間です。電動機の始動時には、必ず大きな電流が発生し、過負荷状態となります。この始動電流が発生している時間は、電路遮断が起こらないように整定する必要があります。

サーマルリレーのリセット

上記で述べたようにサーマルリレーが働いた状態を、「トリップした」状態といいます。トリップした場合は、サーマルリレーのリセットをしなければ再び通電させることができません。

サーマルリレーのリセット方式には次の二つがあります。

  • 自動リセット(自動復帰)タイプ
    主に手の届かない場所、人の入っていけない場所に設置されるのが自動リセットタイプです。過負荷状態が解消されると自動的に復帰します。
  • 手動リセット(手動復帰)タイプ
    サーマルリレーにリセット棒がついているタイプで、トリップした場合はリセット棒を手動で押さなければ復帰できません。必ず手の届く場所にある制御盤には、手動リセットタイプが使われます。

この二つの方式を選択できるように設計されているものもあります。使う環境・条件によってどちらを使うか検討しましょう。

サーマルリレーの選定と設定

サーマルリレーを選ぶ際には、接続する負荷の定格電流をもとにします。一般的には、負荷の定格電流に対し105%までは動作せず、120%で動作するようなものを選びます。

また、電動機の回転が物理的要因で止められてしまった場合のような高負荷・大電流発生時には2~30秒で保護動作する電流範囲のものを選びましょう。

 

範囲に見合ったサーマルリレーを選定した後は、サーマルリレーについているダイヤルをドライバーで回すことにより、整定電流の調節ができます。

 

また、始動電流が長時間発生するような大型の電動機を使用する場合には、別の方法を考えなければなりません。通常のサーマルリレーでは、電動機が始動するたびにサーマルリレーが働いてしまうからです。この場合は次のような方法があります。

  • 飽和リアクトル付サーマルリレーのような動作時間の長いサーマルリレーを選定する
  • 電動機の始動方式としてスターデルタ始動法の制御回路を組む

このような方法で、大型の電動機にもサーマルリレーを使い過負荷から保護することができます。

サーマルリレーのよくある質問

ここでは、サーマルリレーに関するよくある質問をいくつかご紹介します。

Q1:サーマルリレーの記号は?

A:サーマルリレーの記号は、文字記号と電気図記号の2種類の表示方法があります。文字記号は「TR」や「THR」で表示され、「T」および「TH」が「Thermal」(熱)、「R」が「Relay」(リレー)を意味しています。TR-150TR-200などが一般的な型番表記です。

また、電気図記号は以下のように表します。主回路とサーマルエレメントで構成されており、状況に応じて開閉することを意味しています。


Q2:サーマルリレーの配線方法は?

A:サーマルリレーの配線方法は以下の手順で行います。

1.主回路の接続

サーマルリレーは通常電流が流れる主回路に接続されます。主回路の電源供給元や負荷箇所など、保護が必要な装置の間がサーマルリレーの配置場所です。

2.サーマルエレメントの接続

サーマルリレーにはサーマルエレメントと呼ばれる熱感知素子が内蔵されています。主回路内の適切な位置にサーマルエレメントを取り付けることで、過電流や過熱を検知し、リレーを切断する役割を果たしています。

3.リセット機構の接続

サーマルリレーには、一度切断された後、冷却によって再接続するためのリセット機構が付属している場合があります。このリセット機構は、必要に応じて主回路に接続します。

以上の3ステップによってサーマルリレーの配線を行います。サーマルリレーは主回路を過電流や発熱から保護する大切な装置です。構造を確認したうえで適切な配線を行う必要があります。

 

Q3:サーマルリレーはどのように動作するのですか?

A:サーマルリレーの動作プロセスは以下の3段階に分けられます。

1.熱感知

サーマルエレメントによって主回路内の温度変化を感知します。過電流や過熱が発生した際に、サーマルエレメントが急激に温度上昇し、検知する仕組みです。

2.電気的切断

サーマルエレメントが一定温度を超えると、内部のバイメタルおよびバイメタル制御スイッチが変形し、サーマルリレーをオフ(遮断)の状態に切り替えます。

3.再接続

サーマルリレーにリセット機構が備わっている場合には、サーマルエレメントが冷却されると、バイメタルは元の状態に戻り、再びオンに切り替わります。なお、リセット機構を持たないサーマルリレーの場合には、付属のリセット棒を押すことで手動で解除・再接続が可能です。

電動機の保護には適切なサーマルリレーを

サーマルリレーの動作原理を簡単に解説し、リセットの仕方、サーマルリレーの選定と設定の仕方に触れました。
過負荷や拘束による損傷から電動機を保護するサーマルリレーは、電動機を使用する機器の制御盤に必要不可欠とも言える存在です。ミストリップや不動作による損傷事故が起こらないよう、使用する電動機の定格電流に適したサーマルリレーを選定し、適切な設定にしましょう。

リタールでは、各種国際規格に対応した制御盤キャビネットや温度管理製品を提供しています。リタールの標準化されたキャビネットを活用することで、合理的な制御盤製作が可能となります。制御盤キャビネットを検討する際には、ぜひリタールまでお問い合わせください。  

公式ウェブサイトはこちら


関連記事▼
知っておくべき“制御盤の安全”に関わる基礎知識


リタールの技術ライブラリ

「規格に適合したスイッチギア及びコントロールギアの製作IEC 61439適用」

本冊子は、新規格IEC 61439 準拠に必要な様々な対策を講じる上でのお手伝いをするために作成しました。リタール製規格適合システム製品の利用に関するご相談から貴社機器の要求設計や日常検査のご提案まで、幅広くご利用ください。
※新規格IEC 61439における変更点の他、「設計検証報告書」の作成方法などについて、85ページにわたって解説しています。
ダウンロードはこちら

参考: