「IIFES2022」展示会レポート
制御盤DX 制御盤の未来を示したIIFES
制御システム、3D制御盤、RASなど
製造業DXやカーボンニュートラル、コロナ禍とリモートワークなど製造業とそこで働く人を取り巻く環境は大きく変わっています。こうした激変のなかで、制御盤に求められるものも大きく変わりつつあります。
リタールとEPLANは、1月26日〜東京ビッグサイトで開催された「IIFES2022」で、これまでにない新たな制御盤、カーボンニュートラルの時代に適合する制御盤の設計・製造技術を展示し、制御盤業界の未来、「制御盤DX」を提案しました。その内容をご紹介します。
「制御盤とはどんなものですか?」と聞かれたら、100中99人が「大きな鋼鉄製のキャビネットのなかに電源とリレー、端子台などの盤用機器が収まっているもの」と答えると思います。それくらい制御盤の形は昔から決まっていて、イメージが共通していますが、今回のIIFESでリタールは、そんな常識を根底から覆す、画期的な形状の制御盤となる「モジュラー制御システム」を公開しました。
モジュラー制御システムは、電源、リレー、インバータなど機能ごとに小さな箱(ユニット)に分かれ、それらから必要な機能を選んでコネクタケーブルで接続し、ユニット同士を組み合わせて1つの制御盤として機能するというもの。その名の通りモジュラー構造の制御盤として制御盤の筐体メーカーのリタール、産業用コネクタのイルメ・ジャパン、制御盤メーカーのマグトロニクスの3社で共同開発しました。
機械・装置メーカーや制御盤メーカーは、イチから制御盤を設計して盤用機器を調達して組み立てるのではなく、標準化されて半分完成しているユニットを選んで購入し、それを組み立てて利用する。こうすることで装置の稼働開始までの時間を大幅に短縮できる、そんな制御盤の新しい未来像を実現するのが、モジュラー制御システムです。
機能ごとの箱を選んでつなげるモジュラー制御システム
モジュラー制御システムの1ユニットは、標準タイプで30センチ角の立方体で、重さは7〜13kgほど。女性でも簡単に持てる大きさ・重さとなっています。ユニット間をつなぐコネクタケーブルも電源系と制御系を1本にまとめてあり、ワンタッチで脱着可能。ユニットは縦置き、横置き、重ねたり、並べたりして、誰でも簡単に組み立てることができるようになっています。
IIFESの展示デモでも、バラバラの状態から組み立ててデモ機のサーボモータをコントロールした後、今度はインバータに組み替えてモーターを制御するデモを行い、黒山の人だかりができるほど好評でした。
機能ごとの箱を選んでつなげるモジュラー制御システム
女性ひとりで簡単に扱えるサイズ
モジュラー制御システムは、組み立て分解、入れ替えができるというユニークさに目を奪われがちですが、設計製造、運用面で実はさまざまなメリットをもたらします。
まず第一に、設計工数がゼロになります。電源、リレー、インバータ、PLC、フィルタなど、すでに標準化されて完成しているユニットの中から、必要なものを選ぶだけなので、とても誰でも簡単に制御盤を作ることができます。
2つ目が、調達や加工の手間がかからないこと。3社が標準化したユニットを供給し、ユーザーや制御盤メーカーは必要なものを選んで購入するだけなので、イチから作る時のように盤用機器や部材の手配、キャビネットの設計や加工、組み立ての加工の手配や納期、在庫の調整など面倒な管理業務がなくなります。
3つ目が、持ち運びも組み立ても簡単なこと。ユニットは女性ひとりで取り扱えるサイズと重さで、組み立てもユニット同士をコネクタ接続するだけでとても簡単。客先への輸送も宅配便で送ることができます。専門の輸送業者に依頼することなく、簡単で安く運んで、早期立ち上げにも便利です。
4つ目が、レイアウトが自由自在なこと。ケーブルは最大50メートルまで延長できるので、配置に柔軟性を持たせられます。装置周辺の空きスペースにユニットを置けば、省スペース化にもなります。また設計の自由度も上がり、今までにない新しい装置デザインもできるようになります。
5つ目が、メンテナンス性の向上。装置やラインが不調の時、どの機器に不具合があるかを発見するまでに時間がかかります。さらに交換でタイムロスが発生し、結果としてダウンタイムが長くなりがちです。交換機器の在庫がない場合は、購入して届くまで待たなければなりません。
モジュラーシステムの場合、故障箇所の特定が容易で、ユニットごと取り替えるだけ。在庫ユニットを持ってない場合も、注文から宅配便ですぐに送られてくるので迅速に対応できます。
そして6つ目が、ユニットは全てグローバル対応で、ULやCEなどの主要規格の認証済み。輸出用機械向けの制御盤では、認証取得に手間と時間がかかりますが、モジュラー制御システムならその心配もありません。
さらにモジュラー制御システムは、カーボンフリーに対しても有利な制御盤となります。
例えば、生産ラインや設備の更新の際、従来の制御盤の場合は制御盤をまるごと廃棄するのが一般的ですが、モジュラー制御システムの場合、更新が必要な機能のモジュールだけ入れ替えれば良く、他のモジュールは再利用できます。廃棄しなくても良いので、環境負荷を大幅に低減できる上、廃棄の手間やコストも不要になります。鋼材の使用量も減らすことができます。
また、省スペース化によってカーボンフットプリントを低減でき、組み立て作業も省人化・自動化して効率化できるので、炭素排出量も減らすことができます。
その意味でも、モジュラー制御システムは、設計、製造、運用にも便利な現場が喜ぶ制御盤というだけでなく、SDGsや脱炭素にも有効で、経営層や会社全体にとってもメリットをもたらします。
今後、モジュラー制御システムは、リタールとイルメ・ジャパン、マグトロニクスを中心に設計・製造を行い、ユニットを機械メーカーや制御盤メーカーに提供する計画を進めています。
1から新しく作る制御盤はもちろんのこと、すでに標準化されて汎用化している制御盤向けにも、ユニット化して設計製造、運用にかかる手間やコストを削減し、その分をカスタムや一品ものにリソースを投入できるようにするといった使い方も有効です。
電気3DCADのEPLANには既存の図面をモジュラー制御システムに変換する機能が備わっていて、いまある図面を再利用できるので、とても簡単に始めることができます。
モジュラー制御システムは、人手不足の中での短納期化や製品サービスの高付加価値化、カーボンフリーにも威力を発揮します。
モジュラー制御システムが近未来の制御盤の形とすれば、今すぐ始められる制御盤の小型化、省スペース化、カーボンフリーに効果的な新技術として提案したのが「3D制御盤」です。一般的な設計で通常サイズの制御盤と、3D制御盤を並べて展示したところ、そのサイズの違いは一目瞭然。興味深く観察するお客様が多く、とても好評でした。
一般的に制御盤は、中板の上に盤用機器を並べて取り付けて作ります。それに対し3D制御盤は、筐体内の縦横、奥行きの3次元空間をフルに使って機器を配置し、それによって小型化できるという技術です。
リタールのキャビネットは柱と壁のフレーム構造で構成され、フレームから簡単にレールを渡してDINレールを取り付けられます。これによって筐体内のあらゆる箇所を立体的に使えるようになり、無駄なスペースを無くして配置でき、結果的にサイズを小さくできます。実際、この3Dレイアウト技術を使って作った制御盤は、まったく同じ機器構成で作った通常の制御盤に比べて、サイズは約半分以下にできます。小型化することでキャビネットに使う鋼材の量も減らすことができ、カーボンフリーにも有効です。
3D制御盤のレイアウト設計は、電気設計CADのEPLANが対応しています。電気回路図(2D)から、3Dレイアウトへ容易に、EPLANプラットフォーム上でシームレスな部品配置が可能です。これまで通りの中板に配置するレイアウトでも3D制御盤レイアウトでも同じ回路図が使用可能です。筐体が変わっても3D上で部品を再配置、ドラッグ&ドロップしなおすだけで簡単に変更でき、部品の干渉チェックや最適な配線ルートの計算も可能。従来の回路図資産を活かしながら、小型化や3D化を始められます。
左が通常の制御盤、右が3D制御盤
3D制御盤を背面から見たもの
また制御盤業界が人手不足となり、自動機を使った作業効率化への興味が高まっています。ブースでは、リタールオートメーションシステムズ(RAS)の自動加工機を初出展し、普段は手作業でやっている作業も、簡単に自動化できるという提案を行いました。
今回持ち込んだのは、自動圧着マシン「RC」です。端子台をはじめ、最近は盤用機器はスプリング式やプッシュイン式の接続方式を採用する機器が増え、フェルール端子の利用が拡大しています。RCは穴に電線を差し込むだけで皮むきからフェルール端子の圧着までを自動で行ってくれます。特徴は、端子の付け替えを行うこと無くタッチパネルの操作のみで、5種類の電線サイズの圧着を行えることです。そのため大幅に作業効率を上げる事ができます。
ブースではお客様には実機を使って自動圧着を体験していただき、「すごく簡単」「いつも数が多くて大変だけど、これなら便利だ」といった声をいただきました。またRC以外にも多くの工程で自動化できる機械があることを紹介すると、「知らなかった」「ぜひ使ってみたい」といった反応が多く、制御盤の製造工程にも自動化の波が訪れていることを感じさせてくれました。
このほか、IoTに対応して状態をリモート管理できる盤用クーリングユニット「Blue e」と「Blue e+」や、オフィスや工場の片隅に設置して簡易型サーバールームとして使えるエッジデータセンターソリューション「Smart Package」といった最近の製造現場のデジタル化や遠隔監視、エッジ環境の構築に役立つ製品群も展示。また屋外設置できる樹脂製ボックス「AX プラスチックボックス」、大型の標準エンクロージャ「TS8」、工作機械等の操作盤を使いやすい位置に動かせるサポートアームなどの定番製品も出品しました。いずれも世界中の現場で広く使われている製品で、海外市場での活用事例などと一緒にご説明しました。
盤内状況をIoTで監視
今回のIIFES2022は、直前で新型コロナウイルスの感染が急拡大し、非常に厳しい状況で開催されました。来場者数は当初の想定から激減し、もっとたくさんの方々とお話ししたかったという気持ちも残りました。しかしその一方で、ブースまで来てくれたお客様とは通常よりもじっくりと話ができ、モジュラーシステムや3D制御盤、RASといった先進的な技術とこれからの制御盤の設計・製造のあるべき姿をお見せすることができました。限られたお客様ではありますが、今回の展示物に対する反応はとても良く、「今までになく、面白い」「是非やってみたい」「将来的に検討したい」という声を多くいただきました。
今回のIIFESで紹介した内容は、来場できなかったお客様向けには今後、ウェビナーやブログなど、さまざまな角度から情報を発信してまいります。制御盤の未来に向けて、これからのリタール・EPLANにご期待ください。