石油化学プラントなど化学系工場分野の設計に携わる際には、「防爆」の知識が求められます。危険性の高いエリア内の危険から安全を守るために必要な防爆には、厳しい規制や規格が定められており、理解を深めることが必要です。
そこで、この記事では防爆の必要性や防爆に関わる法律や規格などを広くご紹介します。
防爆とは、可燃性ガスや粉じんなどが多い状況で火災や爆発を防止する技術的対策(防爆構造)のことです。
可燃性物質が多く、防爆が必要な場所は「防爆エリア」と呼ばれ、防爆エリアに設置される電気設備は労働安全衛生法や消防法、工場電気設備防爆指針などの法令や技術基準を満たすことが必要です。
防爆エリアは、ゾーン(Zone)と呼ばれる区分で表され、爆発性ガス蒸気が存在する場所は、危険度の高いエリアから順に、ゾーン0、ゾーン1、ゾーン2、と分類されています。
防爆エリアが設けられている代表的な場所は、石油化学プラントなどの化学工場です。石油は揮発性があり、石油製品の種類によっては沸点が35度程度のものもあります。こうした沸点温度のもとでは、夏場の高い気温などの環境下で周囲に爆発性のガスが充満する危険性を考慮しなければなりません。
ガスが充満した状態のエリア内で、電気設備を不用意に使用することは大変危険です。スイッチを入れ、動力に電源が送られる際に回路に瞬間的に大電流が流れます。この時瞬間的にアーク(火花)が発生すると、揮発性ガスに引火して大爆発を起こす危険性があります。そのため、防爆エリアの電気設備に厳しい基準が設けられています。エリア内で電気設備を安全に使用し、危険を最小限にする必要があります。
そして、防爆構造では、防爆エリアにおける電気設備自体の設計や、構造に焦点を当てています。防爆構造にも、耐圧防爆構造、油入防爆構造、安全増防爆構造、内圧防爆構造、本質安全防爆構造などといった分類があり、防爆エリアの種類によって、適した防爆構造が定められています。
防爆エリアの安全を守るために、作業者の安全を確保する「労働安全衛生法」により厳しい安全基準が設けられています。防爆エリアでは、労働安全衛生法で定められた検定(防爆検定)に合格した装置や機器の使用を義務づけています。労働安全衛生法に違反した場合は安全配慮義務違反となり、経営者などに刑事罰が課される可能性があります。
また、消防法においても規制が定められています。したがって、防爆エリアを設定する際には消防署への届け出も必要です。エリア内に設置された機器の改造や変更、エリア自体の変更をおこなう際にも消防署の使用前検査を受けなければなりません。使用前検査を受ける前には、事前の防爆エリアの計画や運用開始時期などを検査前に届け出ます。そのうえで、施設が消防法に適合しているかを審査します。
電気設備を設置する際の基準となる「電気事業法」においても、日本国内の防爆エリアで使用する電気設備は、厚生労働省認可の防爆検定機関で合格しなければ設置ができないとされています。もし海外の防爆認定を取得した機器でも、日本国内の機関で合格しなければ機器を設置できません。さまざまな法律にて厳しく規制される防爆エリアに機器を設置する際には、厳しい安全基準に適合する必要があります。
日本国内で防爆を実施する際には、公益社団法人産業安全技術協会が発行する「工場電気設備防爆指針」という標準仕様書に基づいた防爆検定が実施されています。
工場電気設備防爆指針では、細部にわたり規定が定められています。例えば、防爆エリアに設置される電気設備の高い密閉性、爆発性雰囲気の気体と通電部のアーク・配線用遮断器(MCCB:Molded Case Circuit Breaker)・マグネットスイッチが使用される際に起こる火花が接触しない構造などが求められます。ほかにも、直流モータなどのブラシ部分は回転して接触するごとに火花が飛ぶため、防爆エリアで使用される直流モータは外部が露出しない構成とするなど、多様な条件があります。
海外の防爆規格としては、EU地域での適用が多い「ATEX」「IECEx」や、アメリカの「UL規格」、中国の「NEPSI」「CCC」などが定められています。
防爆エリアで機器を使用する場合、その国や地域で適用される防爆規格の基準を満たす必要があります。日本国内の防爆基準を満たした製品を輸出しようとしても、海外の防爆基準を満たしていなければ、輸出先の国では使用できません。
Ex ボックス
化学または石油化学工業およびオフショアプラントに最適な設備要件を備えたステンレス製とプラスチック製のエンクロージャー
日本国内の防爆エリアで電気設備を使用する際には、工場電気設備防爆指針に定められた仕様を満たしていることが前提条件です。基準を満たしたうえで、使用基準を満たしているかを確認する防爆に関する検定を受検する必要があります。
防爆受検の方式は「個別検定」と「型式検定」の2つがあります。個別検定は文字通り、一品一様の機器について検定を受ける方法です。特殊な機器を防爆エリアで使用する場合には、個別検定を実施します。型式検定は、防爆エリア向けに計画生産された機器の形式ごとに実施します。検定に合格した形式により生産された機器であれば、数に制限なく防爆エリアに納入可能です。
防爆の個別検定では、受検する同じ製品を2台製作し、1台を発破するテストを実施する場合もあります。発破テストにより、外箱が外部で起きた爆発に耐えうる構造かを審査します。型式検定はサンプル検査であるのに対して、個別検定は上記のように細かい審査をおこないます。
個別検査を実施する場合は製品を2台製作するコストや検査にかかる期間なども考慮し、設計を進めていく必要があるでしょう。防爆検定はそれだけ厳しい基準による審査がおこなわれているのです。
防爆基準は、危険なエリアに設置された電気設備に向けた安全基準です。一般的なエリアと比べて厳しい基準が設けられています。防爆エリアに設置する電気設備や制御盤の設計をおこなう際には、防爆エリアでの基準を正しく理解して、より安全な作業環境を確保していく必要があります。
産業用システムソリューション
総合カタログ 35