近年のデジタル化の進歩は速く、さまざまなモノやコトがデジタル化され、活用されるようになりました。今後は現実世界と現実世界を高精度にデジタル化したサイバー空間、この2つの空間が融合した新たなデジタル社会が到来していると言われています。この新しいデジタル社会実現のため、日本電信電話株式会社(NTT)ではIOWN構想を発表しました。本稿ではIOWN構想について説明、その構成の中でも製造業に活用されることが多いデジタルツインコンピューティングについてご紹介します。
IOWN とはアイオンと読み、Innovative Optical and Wireless Networkの略称です。2019年にNTTより新しいネットワーク、情報処理基盤の構想として発表されました。光を中心とした技術の活用で、高速大容量通信や膨大な計算リソースなどを可能にします。2024年に仕様を確定し、2030年には実現させることを目指し、研究開発が進められています。
AIやIoTなど情報技術の急速な進歩により私たちの生活は大きく変わり、多種多様な価値観が持たれるようになりました。他者への理解を深めるためには他者の立場に立った情報や感覚を得る必要があり、その実現には高精細かつ高感度なセンサの開発が必要です。その高感度センサにより多くの情報を得ることができ、他者の感覚や主観にまで踏み込んだ情報処理が可能になります。そのためには既存のインターネット情報通信システムの限界を超えなくてはいけません。世界では今後もさらなるデータ量が必要と言われており、既存のシステムではいつか限界が訪れるとされています。また、データ量の増加は消費電力の増加も伴います。これらの課題を解決することを目的として、IOWNは発表されました。
IOWNはデジタルツインコンピューティング 、オールフォトニクス・ネットワーク、 コグニティブ・ファウンデーションの3つから成り立っています。デジタルツインコンピューティングとは実世界とデジタル世界の掛け合わせによる未来予測などを実現できます。オールフォトニクス・ネットワークはネットワークから端末まで、すべてにフォトニクス(光)ベースの技術を導入したネットワークです。コグニティブ・ファウンデーションはあらゆるものをつなぎ、その制御が可能です。
ツインとは双子の意味で、デジタルツインコンピューティングとはヒトやモノのデジタル表現により、現実世界のツインをデジタル上に構築することです。今までもデジタルツインの考え方はありました。従来は自動車やロボットなど現実世界の個体をサイバー空間へと落とし込み、分析や予測を行い、その結果を現実世界へアウトプットすることで活用してきました。一方で、デジタルツインコンピューティングは多様なヒトやモノ、さらには産業までデジタルツインで自在にかけ合わせ演算を行います。この技術により、今まではできなかった都市部のヒトと自動車など高精度な総合的組み合わせが可能となり、再現することで未来の予測が可能となります。さらに、物理的な再現だけでなく、ヒトの意思や思考など内面までもデジタル表現する試みが行われています。
IOWNの構成する3つの要素である残りの2つについてもご紹介します。
先にも書いた通り、ネットワークから端末までのすべてにフォトニクスベースの技術を導入したネットワークです。フォトニクスベースの技術により、エレクトロニクスベースの技術では困難とされていた大容量や低消費電力、低遅延の伝送実現などが可能になります。
すべてのICTリソースを最適化してつなぐことで、ネットワーク内に必要な情報を流通させる技術です。ネットワークや端末を含め、クラウドやエッジなどあらゆるICTリソースを最適に制御します。
製造業界でもデジタルツインには注目が集まっています。その理由は従来では現実世界で行っていた製造やテストを仮想空間で行えるためです。デジタルツインが製造業界でどのように活用されているのか、一例をご紹介しましょう。今までこれらのICTリソースは個別で管理・運用されていることから、ハイブリッドクラウドやエッジコンピューティングのような高度な分散連携実現の障壁となっていました。
ITの運用に必要な設備をラック1台に一括収納~オールインワンサーバーラック Smart Package
試作品の製作を仮想空間で行うことで、現実世界で製作する際に発生する人件費や材料費が不要となります。また、もし製作段階で問題がみつかったとしても、仮想空間上で修正や改善が容易に行えます。試作品の実験も仮想空間で環境を再現すれば、現実世界で行うコストの削減が可能です。
世界最大の総合電気メーカーであるゼネラル・エレクトリックで活用されているのが、風力発電のインフラです。風向きによる発電の最大化や風車の劣化予測と寿命の視覚化などが行われています。
全国土を3Dバーチャルツイン化し、リアルタイムで都市情報を可視化する「バーチャル・シンガポール」計画を実施しており、インフラ整備に活用されています。インフラ整備後の変化をシミュレーションし、リアルタイムで工事情報や交通状況を共有し、工事の効率化や渋滞の緩和を検証しています。
NTTは2030年の実現を目指し、研究開発を進めています。しかし、IOWNは一企業の力だけで実現できるものではなく、さまざまな業種、さまざまな知識を有した人材の協力が必要です。実際にNTTはインテルコーポレーションとソニーとともにIOWN Global Forumを設立し、IOWNの実現を目指しています。今後もIOWNやデジタルツインコンピューティングについて研究や開発を進め、私たちにとって身近な技術へと進化していくのでしょう。
参考: