CO2を減らすだけでなく、そこから新たなものを生み出せれば、理想的なCO2削減を進められるのではないでしょうか。このようなCO2を再利用しようという考えがカーボンリサイクルです。CO2削減の解決策になると期待されるカーボンリサイクルについて、その概要や技術開発のロードマップ、企業による取り組みの事例などをご紹介します。
カーボンをリサイクルするとはどういった取り組みなのでしょうか。カーボンリサイクルの意味と目的から見ていきましょう。
カーボンリサイクルは、炭素を表すカーボンと再利用のリサイクルを合わせた言葉です。
炭素を再利用とはどういう意味でしょうか。この場合の炭素とは、温室効果ガスの二酸化炭素(CO2)を表しています。CO2を資源とみなし、リサイクルすることで有効利用していこうという考え、それがカーボンリサイクルです。
地球温暖化現象の原因となっているのは、熱の元になる太陽からのエネルギーを地表付近に閉じ込め、宇宙への放熱を妨げる温室効果ガスです。この温室効果ガスのうち、75%を占めるのがCO2だと言われています。
CO2を資源として再利用することができれば、CO2排出量の削減に大きな一手となります。このような期待からカーボンリサイクルは注目されています。
地球温暖化を含む気候変動問題は、世界で協力して取り組まなければならない共有の課題です。その一因となっているCO2削減は、先進国を中心に各国で目標を定め取り組んでいます。
そういった中で、日本のCO2排出量は2007年から2020年まで世界で5番目の多さを維持し、削減が進んでいないのが現状です。一方で、日本には世界に誇れる優れた技術を持つ企業が多数あり、その中にはカーボンリサイクルに関連する技術も少なくありません。
こういった背景や情勢から、日本でも2019年にカーボンリサイクルの必要性に触れ、資源エネルギー庁にカーボンリサイクル室が立ち上げられ取り組みを進め始めています。
SDGsの目標の1つとしても「気候変動に具体的な対策を」が設定され、炭素の行き先に対する世界の注目度は高くなっています。こういった状況の中で、カーボンリサイクルの取り組みは今後さらに加速していくと予想されます。
カーボンリサイクルは、CO2削減目標を掲げる国であれば注目せずにはいられない、実現すれば大きなメリットのある技術です。世界の国ではどういった取り組みを進めているのでしょうか。
日本では、2019年2月に資源エネルギー庁カーボンリサイクル室が設置されたほか、同年6月に実現に向けたカーボンリサイクル技術ロードマップ(PDF)が取りまとめられました。
この中では、CO2分離回収技術の進展について、2030年と2040年を区切りとした3つのフェーズで進めるロードマップが示されています。
また、ロードマップではCO2の利用先として次の4種類をあげています。
CO2をこれらの利用先の物質へ変換するためには、その製造工程において使用するエネルギーが必要になります。しかし、そのエネルギーを、CO2を排出する火力発電に頼っていては本末転倒になってしまいます。
また、一部の物質は生成のために水素を必要とします。現在、天然ガスから生成する水素が普及していますが、この段階でもエネルギーが消費されています。
そこで、基盤技術としてCO2を排出しないゼロエミッション電源の活用と、CO2フリー水素の生成技術確率も、カーボンリサイクル実現において重要な位置づけとされています。
日本だけでなく、世界各国でもカーボンリサイクルの取り組みは進められています。
日本と米国では、経済産業省と米国エネルギー省の間でカーボンリサイクルにかかる協力覚書が締結されています。この協力体制により、技術情報の共有や専門家の相互派遣による共同研究を進めるという計画です。
このほか、日本とオーストラリア、日本とUAEの間でも、同様の協力体制を結んでいます。
EUではカーボンニュートラルシナリオを策定し、その中の1つとしてカーボンリサイクル技術を活用したCO2削減をあげています。CO2回収の方法として、カーボンリサイクルが最も多い回収量になることを想定していることからも、重要な位置づけとしていることがわかります。
カーボンリサイクルは、CO2からリサイクルして作り出された製品に需要があり、ビジネスモデルとして成立しなければ普及は進みにくいと考えられています。そのためには、政府が普及を推し進めるだけでなく、企業による積極的な取り組みも必要です。
企業が進めているカーボンリサイクルに関する取り組み事例をご紹介します。
カーボンリサイクルでは、CO2を何に変えるかも重要ですが、その前工程としてCO2をどのように回収するかも重要です。
CO2を効率よく別の形に変えるためには、空気中に混合ガスとして存在する状態では使いにくく、CO2を単独回収しなければなりません。しかし、CO2の単独回収はコストがかかることが課題です。
そこで、ある企業ではCO2の回収を低コストで行える技術の開発を進めています。また、回収したCO2を水素と反応させることでメタンガスを製造する触媒技術も開発しています。
これらが実用化されれば、回収したCO2をメタンガスに変換して都市ガスのパイプラインに流すことで、一般家庭や工場での炭素循環について前進するとしています。
CO2を吸収する液体を電気分解することによって、低コストで資源化できる技術の開発を進める企業もあります。
この低コスト化に合わせ、CO2をリサイクルした製品の販売によってCO2の削減に関するランニングコストをゼロにすることを目標としています。2030年には年間500万トン以上のCO2削減を見込んでいます。
CO2の利用先として、最も自然な形とも言える方法に着目した取り組みの事例です。
この事例では、CO2を植物の光合成に利用してもらいながら、利用するエネルギーのすべてを循環させることを想定した新しい農業のビジネスモデルを提案しています。
温室に送る熱を作るためのボイラーや、電気を作るための発電機から排出したCO2は温室に送り植物に吸収させることで光と熱とCO2という最適環境を植物に与える仕組みです。
このシステムは実際に稼働していて、高糖度のミニトマトやベビーリーフが生産されています。
CO2をメタンのような燃料にできるガスに変換するためには、水素と反応させる必要があります。また、電気分解やさまざまな設備の使用には電気エネルギーが必要です。
水素の直接利用だけでなく、電気を生むための燃料としても水素は注目されているため、カーボンリサイクル実現には水素の製造技術も不可欠です。
こういった新たなエネルギーのもとを製造する最先端の設備が作られたのは、東日本大震災で発生した原子力発電所の事故により大きな困難に見舞われた福島県浪江町です。
国や県、研究機関や再エネの業界団体、民間企業などが参加した「福島新エネ社会構想」の一環として、この地に「福島水素エネルギー研究フィールド」が作られました。ここではCO2を排出せずに水素を製造する研究が進められます。
この世界最大級の水素製造設備により、福島を新しいエネルギー社会のモデルとして復興を後押しすることも目的としています。
CO2排出量削減の大きな一手として期待されるカーボンリサイクルについて、その概要や取り組み事例をご紹介しました。
カーボンリサイクルは、CO2の排出量を減らすだけでなく、そこから新たな製品を生み出します。マイナスをゼロにするだけでなく、プラスに変えられる、理想的なCO2対策と言えます。カーボンリサイクルの普及には、それに活用される技術や生み出された製品のマネタイズが必須です。技術開発と低コスト化、製品の普及を進め、さらにCO2消費拡大につなげていく循環を作り上げていくため、これらの技術や製品販売が収益に結びついていく必要があります。
すでに多くの公的機関や民間企業がカーボンリサイクルに関連する技術開発を進めており、カーボンリサイクル社会の実現へ着実に近づいていると考えられます。気候変動問題の対策として期待の大きいカーボンリサイクルの取り組みは、今後も加速していくと予想されます。
参考: