制御盤や電子機器において、ノイズの発生とそれによって機器が受ける影響は避けて通れない問題です。こういったノイズに対する考え方として、重要視されるようになっているのがEMCです。EMCとはどういったものを指し、なぜ重要視されるのでしょうか。その理由と、EMCを基本としたノイズ対策についてご紹介します。
EMCとはどのようなものなのか、基本的な考え方から見てみましょう。
EMCはelectro-magnetic compatibilityの略で、これを日本語にすると電磁両立性または電磁環境両立性となります。
地球上に存在するあらゆる機器(電子機器や電気機器など、以下同じ)は、必ず電磁波を放出しています。家庭で使われる電気製品から大規模な制御システムやロボットなどの産業機器、それらの内部に使われている部品も含め、すべての機器が電磁波の発生源となります。
これは、電気エネルギーの変化があるところには必ず磁界が発生し、また逆に、磁界の変化が電気エネルギーを生み出すという法則からであり、避けて通ることはできません。
こういった、狙って生み出されたものではない電磁波を電気的ノイズと呼んでいます。電気的ノイズはほかの機器に影響を与え作動を妨害する可能性があり、できる限り防ぎたいものです。
このように、「必ず電気的ノイズを発生させる」「電気的ノイズは防ぎたい」という相反する二つの特性を機器は持っており、両者を両立させるという考え方がEMCです。
EMCは、「機器やシステムが使用されている電磁環境において、あらゆるものに対して許容できない妨害を与えずに、満足に機能する能力」と定義されます。
機器は必ずノイズを発生させ、ノイズを受け取った機器は影響を受けます。しかしこのとき、発生させるノイズが小さくなり、ほかの機器はノイズによって受ける影響を小さくできれば、許容できる範囲内で動作することができます。こういった状態が、相反する二つの特性が共存している状態であり、EMCが達成されている状態です。
機器とノイズには電磁波についての二つの性質があります。
一つは、電磁波がほかの機器に妨害を与える性質です。これをEMI(エミッション:電磁波妨害)と呼びます。EMIには各国で基準があり規制が設けられています。
もう一つは、電磁波によって影響を受ける性質で、EMS(イミュニティ:電磁感受性)と呼ばれています。
EMCの「compatibility(両立性)」とは、EMIとEMSの二つを両立することで、それにより電磁環境の妨害に耐えて満足に機能する状態、または能力がEMCです。
EMCという考え方はなぜ重要視されるようになってきたのでしょうか。
近年、IoTの普及により制御盤やその中に配列される電子機器は高度化しています。高度化の流れのなかで、省スペース化や軽量化も進みました。これにより、基板にはICや受動部品が高密度で配列され、基板と部品、基板と基板も近接して設置されるようになっています。こういった高密度化・近接化により、電磁干渉が起きやすく、ノイズの影響も大きくなっているのです。
また、プロセッサの演算処理能力が向上していることにより周波数も高くなり、ノイズ発生量も増大しています。同時に機器のハウジングや固定器具はプラスチック化が進み、電磁波が透過しやすい構造になっていることも、ノイズを無視できない存在にしている理由の一つです。
このように、現代はノイズの影響が大きくなる要因がいくつもあります。こういった現代の環境においてノイズ対策は不可欠であり、EMCの重要度が高まっているのです。
では、EMCを実現するためには具体的にどのような対策が有効なのでしょうか。その基本となる考え方から見てみましょう。
EMCにおけるノイズ対策としては、次の二つの考え方があります。
しかし実際には、この二つをどちらも100%にするのは不可能です。そこでこの二つの対策を同時に施しノイズに強い環境を作り上げるのがEMCの考え方です。
現実的なノイズ対策では、EMI対策とEMS対策をどちらも100%にすることは不可能なため、「どの程度以下であれば基準内とするか」という品質設定が重要です。ここでは、客先要求値を含めた要件の聞き取りとレベリングが必要となります。
開発が進み、プロダクトのノイズレベルが品質設定または規格や法基準値を超えた場合には、症状に合ったノイズ対策を施すなどの処置を行う必要があります。しかしノイズ対策部品への換装やノイズを遮断する構造の追加やハウジングの変更は、予定していなかったコストと時間を費やさなければなりません。
このように、製品開発が進むほどに対処できるノイズ対策は限られコストも増大します。そのため、製品開発初期からの十分な検討と評価が重要となってくるのです。
開発段階からの一般的なノイズ対策の手順には、次のような一例があります。
このように、ノイズ対策部品の使用は最終段階で検討されます。その前段階として、ノイズの発生と伝達を減らす処置が行われます。すなわち、EMI対策とEMS対策では、EMI対策を先に行いEMS対策をあとから施すことが基本の流れとなります。
EMCに関する規格は、IECがEMC規格作成ガイドを定め次の4つによって体系化されています。
EMCについての規格は、国際規格や地域規格・国家規格・団体規格などがあります。このうち、国際規格であるIEC規格とその特別委員会であるCISPRの規格が世界標準となっています。日本国内でも、JIS規格はCISPR規格を採用しており、JIS化が進められています。
CISPR規格の規定内容には次のような例があります。
このようにEMCについて具体的な規格が規定されており、これらの規格が基準となって現代のノイズ対策が行われています。
ノイズ対策の考え方、EMCについてご紹介しました。
IoTの普及によりデータの送受信量は爆発的に増大した現代において、EMCは欠かせないものとなっています。技術が高度化するのと同時に、ノイズとの上手な付き合い方を模索する必要もあり、EMCの重要度もさらに高くなっていくと考えられます。
参考: